アップルは「クルマ市場」で勝てるのか? CarPlayで自動車に進出するアップル

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自動車を「情報」で運転する未来は来るか?

筆者の近所でも時々見かけるが、グーグルはレクサスをベースに自動運転車を制作し、街中を走らせている。自動車メーカーからすると、テクノロジー企業が許容する安全性の基準が異なるためか、「アシスト」以上の機能を導入するには至っていない。もちろんそのことに筆者として異論はないし、使用者のスキルや交通関連の法規や保険など、テクノロジー以外の要素まで、すべて解決する必要がある。

自動運転よりも手前の話として、カリフォルニア州では、自動車に組み込まれた情報機器以外に運転中に触れていると、交通違反となる。iPhoneはもちろんのこと、Google Glassも現状の法規では上記のカテゴリに入る。アップルがCarPlayに取り組むひとつのインセンティブは、自動車運転中にiPhoneの機能を利用できるようにしてユーザーの利便性を高めることだが、その裏返しとして、運転中もiPhone以外のデバイスに触れてほしくないという意志も見えてくる。

今後の注目分野は?

その先の未来はどうだろう。

そもそも、サンフランシスコ周辺のベイエリアでは、通勤圏のエリアの広さと中距離の交通機関が不十分なことから、1人1台で排気ガスをまき散らしながら朝夕毎日激しい渋滞に巻き込まれるライフスタイルが変わっていない。電気自動車の普及や、相乗りの仕組みなどが地域で取り組まれているが、どうしても橋をまたいだ異動となると、これらがボトルネックになり、逃げ道がない渋滞に目をつぶらなければならない。

CarPlayは、iPhoneの音楽を楽しみやすくなったり、通話やメッセージなどのコミュニケーションを声で操れるため、クルマの中の過ごし方は変わってくるだろう。現在はスナップチャットやインスタグラムなどの写真のコミュニケーションからショートビデオのコミュニケーションへとトレンドが流れているが、声で完結するコミュニケーション手段がクルマの中で楽しまれるようになるかもしれない。

また、カーインフォマティクスの分野について、アップルがCarPlayを導入することで進化するか、という点について、導入されてすぐの段階では、筆者は懐疑的な見方をしている。

現状、アップルは、交通情報や気象情報を独自に収集し、その情報を地図にマッピングしたりするサービスを提供していない。また特定の自動車メーカーとこうした情報の共有について、今回のCarPlayを通じて話をしている様子もうかがえない。

たとえば日本では、VICSと呼ばれる交通情報の提供を行う仕組みがあり、FMや電波、赤外線ビーコンによって、地域ごとの細かい交通情報をナビに提供しているが、アップルのiPhoneがこれらの情報を受信できるわけではなく、日本で使う限り、純正や日本メーカーのナビよりも交通情報の面では劣る結果になるだろう。

ホンダはナビゲーションから走行情報を細かく取得して集約することによって、VICS以上のデータをリアルタイムに取得できるようになっている。東日本大震災の際、ホンダの車がどこを走ったかというデータをヤフーやグーグルに提供し、道路の復旧状況を確認したり、その地域の安否確認の手掛かりを得るといった活用が見られた。

クルマの運転の最適化や自動運転については、アップルがこうしたイノベーションの担い手になる未来にも期待したいが、やはり自動車メーカーのイノベーションのほうが期待が持てる。それだけに、アップルのCarPlayやグーグルのアンドロイドあるいは自動運転車の動向が、メルセデスやホンダとどのように関係していくのか、注目を続けていきたい。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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