大塚明夫「声優養成所を過信する若者の危うさ」 現場は「ありきたりな役者」など求めていない

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「安全策」として学校という道を選ぶ人は、その時点である種の“ステレオタイプ”を選んでいるということ、そしてこと芸能の世界において“ステレオタイプ”ほどすぐさま使い捨てられる存在はないということをはっきり認識しておいてください。

学校や養成所の大変なところは、つねに大勢を相手にものを教えなければならないということです。そしてどうせ大勢に教えるなら、その中のなるべく多くに、とっとと正しいコードを押さえられるようになってもらいたい。それぞれの個性や短所を把握し一対一で叩き上げるよりも、手早く「基本的なことは一通りできる役者」に育て上げてしまったほうが、言い方は悪いですが商売に使える駒も増えるわけですから。

大塚明夫が講師をやらない理由

「大塚さんは、声優の専門学校や養成所で人を教えたりしないんですか」

そう聞かれることもあるのですが、今のところ、私にそのつもりはありません。芝居の基礎がわかっていない人にものを教える指導力が私にはありませんし、「残念ながらセンスがない」というタイプの子たちの「何言ってるかわかりません」という顔を見ていたら日々絶望してしまいそうだからです。ガンダムを一機作るより、量産型ザクをたくさんそろえるほうが安上がりだし手間もいらない。しかしザクでは世界は変わらない。皮肉なものです。

情報化社会となった今では、「声優」というキーワードでWEB検索すればいくらでもアフレコ現場の画像や動画を見ることができる。それによって、ある程度「それらしく」しつらえてからこの世界に入ることが可能になりました。この記事を読んでいる方をいきなりアフレコ室に連れていき台本を持たせても、おそらく皆さんなんとなくのポーズはとれるでしょう。台本を片手に持ってマイクの前に立つに違いありません。

10年前だと、信じられないほど下手くそな人や、ルールをまったく理解できていない人もざらにいました。極端な話、マイクをつかんで話そうとしてしまう人もいたほどです。もちろんこれは一例です。めちゃくちゃなほうがすばらしいというわけではありません。でも、正解の体裁をしつらえずにまず思ったことをやってみる、ということがそもそも困難な時代になってしまったのだなとは思います。

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