日本の政権首脳が「トランプ再選」を熱望する訳 米大統領選の予測はそんなに簡単ではない

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アメリカがこれを交渉の第1歩ではなく、本気で目標にしているのであれば、今日の日米安全保障関係が著しく変わる可能性がある。だが今のところ、2016年の選挙運動期間中にトランプが威嚇していたにもかかわらず、トランプ政権下では2国間関係の継続性のほうが変化よりも目立っている。

日本のリーダーたちによると、安倍首相にとっては、トランプとの関係にあまりにも多くの時間と労力を注ぎ込んできたため、トランプをあと4年間大統領にしておくほうが、日本とのつながりがほとんど、もしくはまったくない新たな民主党大統領を相手にするよりも望ましいということだ。

トランプ外交で日本が得た「利」

スティーブン・バノン元ホワイトハウス首席戦略官が2019年3月に日本を訪問したとき、同氏は日本の政財界のリーダーに次のようなメッセージを伝えた。

①トランプは2020年11月にほぼ確実に再選されるので日本は彼を優遇すべき、②自民党は党則を変更して安倍首相が首相として4期目の3年の任期も勤められるようにすべき、そして、③トランプが2024年まで大統領を務め、安倍首相が2024年まで首相を務められれば、日米は協力して中国を抑え込むことができる――。

これらのメッセージはバノンの講演を聞きに集まった多くの自民党議員たちの熱狂的な拍手によって迎え入れられたとのことだ。

中国やロシアに対するトランプ大統領の政策は日本の指導者たちにとって好ましいものだ。アメリカの対中国貿易戦争により、習近平国家主席はほかの国との友好関係の構築を余儀なくされ、日本も大きな利益を受けてきた。両国は2020年4月の習主席による日本公式訪問の成功に向けて準備を進めている。

また、トランプ大統領とプーチン大統領が友好関係を保っていることから、安倍首相のプーチン大統領との関係強化の努力に難色を示したオバマ前大統領とは異なり、日本はアメリカから苦情も干渉も受けずにロシア政策を進めることが可能だ。

また、安倍首相にとって最優先事項である憲法改正に関しては、「日本の武士道精神はどうした」と言って、安倍首相に軍事費増大を迫るトランプ大統領ほど、憲法改正を支持する世界的リーダーはいないだろう。

アメリカの大統領選挙は予測が難しいことで有名だ。1976年のジミー・カーター元大統領の選挙の1年前、ほとんどのアメリカ人は彼が民主党の指名候補者になるとさえ思わなかった。

1992年のビル・クリントン元大統領の選挙の1年前、彼は民主党の有力候補者に入っていなかった。2008年のバラク・オバマ元大統領の選挙の1年前、彼はヒラリー・クリントンに15ポイント差で劣勢だった。そして、2016年の大統領選挙当日、ニューヨーク・タイムズはヒラリー・クリントンの当選確率を85%と予測していた。

したがって、現時点で2020年11月3日の選挙結果を自信をもって予測できる人はいないはずだ。しかし、トランプ勝利の確率は多くの日本人リーダーたちが想定するほど高くないかもしれない。

そして、短期的にトランプ大統領再選は日本のメリットになるかもしれないが、長期的な結果は日本に有益とは言えない可能性がある。トランプ大統領再選によって、アメリカのアジアでの役割と影響力が減少するという結果を招くことになろう。日本が受ける影響は少なくない。

グレン・S・フクシマ 米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員

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Glen S. Fukushima

ワシントンD.C.のシンクタンク「米国先端政策研究所(CAP)」の上級研究員。カリフォルニア州出身で、アメリカ合衆国通商代表部で対日と対中を担当する代表補代理や在日米国商工会議所の会頭を務めた経歴を持つ。また、ハーバード大学の大学院生のときには、エドウィン・ライシャワー教授、エズラ・ヴォーゲル教授、デイヴィッド・リースマン教授の助手を務めた。

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