海運業界は環境厳しく、業績・財務の本格的な回復には時間がかかる《スタンダード&プアーズの業界展望》

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今後の財務健全性の見通しが格付け評価上のポイント

スタンダード&プアーズは、今年7月に商船三井を「BBB+」から「BBB」に、川崎汽船を「BBB」から「BBB−」にそれぞれ格下げし、10月には川崎汽船を格下げ方向で「クレジット・ウォッチ」に指定している。それでも、「BBB格」に位置する日本の海運各社の格付け水準は、海外の業界他社の格付けと比較して、相対的に高い。これは、1)特定分野の専業会社が多い海外の海運会社と比べて多様な事業ポートフォリオを有しているため、キャッシュフローの安定性が相対的に高いこと、2)過去数年、長期契約の積み上げや事業効率化に取り組み、市況悪化に対する抵抗力の向上に努めてきたこと−−により、各社が海運業界で強固な事業基盤を有しているとのスタンダード&プアーズの見解を反映したものである。

ただ、大幅な業績の悪化を受け、業界各社の格付けに対する下方圧力は強まっている。大規模な構造改革を実施する方針であることや、今後1~2年は過去に契約した船舶投資が一定の水準で続くと見込まれることで、フリーキャッシュフローの赤字が続く見通しとなっており、各社の財務負担は強まる方向にある。各社は今後の船舶投資を絞り込む方針を示しており、数年は保守的な財務方針が維持される可能性が高いものの、今後の財務健全性回復には慎重な見方が必要と考えている。各社の業績見通しに依然不透明さが残り、早期のキャッシュフロー創出力回復を楽観できないことが、その理由である。また、仮に厳しい事業環境がさらに長引く見通しとなった場合には、追加的な構造改革の可能性とその財務負担についても再検証する必要があろう。

今後、市況低迷の長期化や極端な円高などで来期以降も業績低迷が続く見通しとなったり、新造船建造やM&Aに対する大規模な投資によって、各社の財務内容が格付けに見合う水準を維持できない懸念が強まる場合には、アウトルックの下方修正や格下げの可能性がある。

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