米「イラン攻撃」さえ楽観する市場が見逃す真実 株価は短期的には再度上昇の「恐れ」さえある

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これは、景気の分岐点とされる50を5カ月連続で下回っているのみならず、近年では2016年1月の世界同時株安時の最低記録(47.8)をも突き破って、2009年6月(リーマンショック後)以来の最悪記録となった。株式市場では、「半導体関連の指標に底入れ感があるから、製造業は大丈夫」「米中部分合意がなされるから、世界貿易が回復して製造業は改善する」といった、楽観論が支配的となっているが、製造業の現場からは「そんな甘いことではない」という、地に足がついた悲観的な観測が聞こえる、ということなのだろう。

日米で株価と実体経済の乖離拡大、日本も短期上昇か

日本でも、昨年12月27日(金)に公表された経済指標は、厳しいものが多かった。たとえば同11月の鉱工業生産は前月比で0.9%減となり、同10月に4.5%減と大きく落ち込んだあと、さらなる減少となった。この10月の大幅減には台風の影響が大きかったとされているが、その後も下げ止まっていないわけだ。

また、有効求人倍率(有効求人数÷有効求職数、「有効」とは、過去に登録された求人、求職を含め、統計集計時点で取り下げられていないものを指す)は、2019年4月までの1.63倍を天井として、低下傾向にあった。同日発表の11月分は、3カ月連続の1.57倍で、水準は高いもののなかなか再上昇に転じない様子が表れている。加えて、先行指標とみなされている新規求人数は、前年比6.7%減と4カ月連続のマイナスで、企業が採用意欲を失いつつあるのではないかと懸念される。

こうした実体経済や企業収益と株価の乖離は、特にアメリカの株式市場で広がるばかりだ。アメリカの予想PER(株価収益率、先行き12カ月利益予想ベース、ファクトセット調べ)は直近でも18.2倍と、2018年初め頃(その後の株価調整につながった)以来の高水準だ。

最後になったが、今週の日経平均株価の予想については、週初月曜日は、シカゴ先物価格に沿って、2万3300円前後でのスタートになりそうだ。しかし、前述のように、アメリカ株が憂慮すべき要因を無視して短期的には楽観に走る恐れがあり、いったん日本株も戻す展開がありえよう。ただ、それは先行きの株価調整を大きくするだけだ。今週の日経平均株価としては、2万3200~2万3700円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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