米「イラン攻撃」さえ楽観する市場が見逃す真実 株価は短期的には再度上昇の「恐れ」さえある
とはいうものの、こうした中東地域における地政学的リスクの高まりに対してのアメリカ市場の反応は、極めて限定的だ。NYダウは前日比で約234ドルしか下落しておらず、前述の足元の株価上昇幅より小さい動きだ。
投資家が予想する先行きの株価変動率を示すVIX指数(いわゆる恐怖指数)も、2日(木)の12.47から、一時は16近辺に上昇したが、結局14.02で引けている。VIX指数先物の売りが積み上がっていると言われる割には、買い戻しが大きく入るようなことはなかった模様で、VIXの水準そのものも、株価波乱のめどと言われている20には程遠い。
一方の米ドル円相場は、先週を通じても世界的なリスクの存在や実体経済の不振を、株価動向に比べて正しく反映し、ずるずると米ドル安・円高方向で進んでいた。それでも、ソレイマニ司令官殺害の報を受けて、一時的に108円をわずか割り込んだものの、最終的には108.10円と、108円台を維持している。
こうしてみると、先週のアメリカの株価動向は、さしたる好材料ではないものを買いの口実として大きく株価が上がり、本来懸念すべき材料を受けても株価下落幅は極めて限定的だ、と言える。つまり、あまりにも市場が楽観に過ぎる感が否めない。
当面、市場は今後の中東情勢を軽視する恐れ
では、今回の司令官殺害を受けた中東情勢の緊迫が、今後アメリカの株式市場における過度の楽観を一気に吹き飛ばすかという点については、どちらかと言えば短期的にはそうはならず、市場は行き過ぎた楽観に包まれ続け、すぐに株価が上昇基調に復してしまうという恐れが強いと考える(あえて「恐れ」という言葉を使う)。
まず、イラン首相府は、4日(土)~6日(月)を国民服喪の期間とすると公表している。その間、ソレイマニ司令官の葬列がイラクからイランの墓所に向けて行進する予定だ。散発的に、イラク内の米空軍基地やアメリカ大使館の制限区域に、ロケット弾が撃ち込まれたとの報道はあるが、イランによる組織的な報復は、少なくとも服喪期間は控えられる可能性が高い。また喪が明けても、すぐにイランが大規模な報復を行なうとは限らない。すると株式市場は「数日待っても何も起こらないから、今後もずっと大したことは起こらないに決まっている」と、また楽観に走る展開がありうる。
また、今回の事件は、今後多くの人命が失われかねない状況であるし、安全保障面でもイランが核開発に走る懸念が強まるため、憂慮すべきことだと言える。しかし株式市場は、「いかに緊張が高まろうと、原油価格さえ上がらなければ、主要国の景気や企業収益には関係ない」として、楽観基調に復する展開が想定される。
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