ナンバー2暗殺されたイランの「報復」とは何か アメリカとの全面戦争はありえる?
アメリカ側はソレイマニ司令官暗殺の理由として、「多数のアメリカ人の殺害を企てていた」(トランプ大統領)、「イランのさらなる攻撃計画を抑止するのが狙いだった」(アメリカ国防総省声明)と、イランによる攻撃計画の存在をうかがわせている。
イランは、アメリカの経済制裁によって経済的に窮地に立っており、昨年11月には、ガソリンの値上げを契機に大規模な反政府デモが全土的に勃発。危機感を持ったイランの体制は、各地で市民に向けて発砲して数百人が死亡、デモを強引に抑え込んだ。
失うものがないほどに追い込まれてきたイランが、傘下のシーア派組織を使ってアメリカの権益を直接的に狙い始める戦略に転換したかもしれない。それが昨年12月にアメリカ人1人が死亡したキルクークの基地に対する攻撃であり、アメリカが主張するように、さらなる攻撃計画があったとしても、イランの窮状から判断して不思議でない。
大統領選見据えたスタンドプレーとの見方も
一方で、11月の大統領選再選を狙ったトランプ氏のスタンドプレーとの見立ても可能だ。
トランプ大統領に対しては、昨年12月にアメリカ下院本会議で、弾劾訴追の決議が採決されている。上院は共和党が過半数を占めているため、トランプ氏が辞任に追い込まれることはないとの観測が強いが、支持基盤のキリスト教福音派の有力誌が大統領罷免を社説で主張するなど風向きにも変化が見られる。新年というタイミングで、イランに強い態度で臨んでいることを誇示するため、ソレイマニ司令官の殺害という予想外の行動に打って出たとの見方もある。
ただ、「戦争を始めるのではなく、戦争を止めるための行動だ」とトランプ大統領が主張するように、イランとの全面戦争は望んでいない。トランプ氏は、シリアから一部部隊を残して撤収する決断を行っており、全体的な流れとしては、中東への関与を縮小させる政策を進めている。アメリカ兵に多大な犠牲が出かねないイランとの戦争は、トランプ大統領の再選に向けた戦略を大きく狂わすことになりかねない。
トランプ大統領には、ソレイマニ司令官を殺害したとしても、戦力で劣るイランは、全面戦争の引き金を引くことになる中東のアメリカ軍基地への直接的なミサイル攻撃や軍艦隊への攻撃には、打って出ないとの読みがある。ハメネイ師が報復を誓っており、何らかの報復をイランが行う可能性は極めて大きいが、直ちにアメリカとイランの全面戦争になるとの見方は少ない。
量と質の両面で軍事的に劣勢に立つイランが、アメリカ軍に真っ向勝負を挑めば、自爆的な戦いにならざるを得ない。
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