恵方巻きだけじゃない!「食品ロス」に秘伝の策 年間600万トン以上の廃棄を少しでも減らせ

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国連の国際会議で食品ロスが消費社会のあり方を問うキーワードとなって久しい。食品廃棄量を減らすと、生産加工や流通の過程で排出される二酸化炭素など、温室効果ガスの削減につながる。食品を取り扱う、すべての業界で深刻化している人手不足の解消に役立つし、働き方改革の一助にもなる。

そうした社会的ニーズが高まる中、乳化剤などの食品添加物は、食品原料ごとに異なる条件を見極め配合することで、品質の安定化に役立ってきた。現在では歩留まり向上による生産現場の効率アップやエネルギー消費低減に結びつく役割にも熱い視線が注がれている。

一方、洗剤のナノ表面改質剤技術などで、世界的に知られる花王。意外にも、食品用の機能性油脂・改良剤の分野でジャンルは限られるものの、長い実績がある。ケミカル事業部門の油脂事業部で製品開発し、大手製パン・菓子業界や中小地場を含む豆腐メーカーらと、密接なつながりを築いてきた。

中でも、豆腐を作るときに豆乳を固める凝固剤では、大手流通で販売している絹ごしと木綿の約4分の1に「マグネスファイン」が使用されているという。

20年以上前、食品スーパーで陳列される充填豆腐パックの生産能力は、1時間当たり1000丁が限度だった。この製剤の登場で同3000丁に躍進、さらに最近では機械性能向上もあり、同7000丁が可能となったのだ。熟練の技と勘が必要とされた、凝固操作に使用するにがり(塩化マグネシウム)液を分散させた油脂を、専用の分散機で微粒子状にすることで、豆乳の凝固速度をコントロール。十分な硬さと弾力性のある豆腐を作り出す。

カギはスペシャリティー化と海外市場拡大

豆腐工場の中は豆乳が流れるプールのような自動化ライン。大豆原料の品質のブレによって柔らかすぎる豆腐となるリスクがつきまとい、リスクが発生すると、いったんラインを止めて、人海戦術で外に半製品をかき出す作業をしなければならない。そうならないように、安定した品質の充填豆腐パック作りが必要なため、マグネスファインが使われるのだ。

森下昭寿・食油営業部長は「環境負荷低減につながる製品の事例といえる。歩留まり向上で工場内の食品廃棄を減らし、電力などのエネルギー使用量が結果として減らせているのではないか」と説明する。

食品添加物のメーカーは、加工食品メーカーのみならず、コンビニと密接な取引のあるわらべや日洋やフジフーズ、シノブフーズなど、総菜ベンダーの縁の下の力持ち役に欠かせない存在だ。ただし、技術的にも差違がないコモディディー製品で、利益を取りづらい厳しいマーケットではある。

カギを握るのは、スペシャリティー化と海外市場拡大で、視覚や味覚に訴える機能重視の製剤開発が各社の生命線。食品改質剤だけをとっても、有力外資のデュポンニュートリション&ヘルスが2018年8月、川崎市のかながわサイエンスパーク内に開発拠点を設けたように、トップを走る理研ビタミンの牙城を崩そうとしている。

むろん外資だけでない。国内勢では花王以外にも、三菱ケミカルフーズ太陽化学ADEKAなど、有力メーカーが将来性ある冷凍・チルド分野で提案力をいかに磨くかが注目される。2020年は各メーカーにとっても、工場の生産性改善にもつながる食品ロス削減という新たな挑戦もあり、競争はますます激しくなりそうだ。

古庄 英一 東洋経済 記者

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ふるしょう えいいち / Eiichi Furusho

2000年以降、株式マーケット関連の雑誌編集に携わり、『会社四季報』の英語版『JAPAN COMPANY HANDBOOK』、『株式ウイークリー』の各編集長などを歴任。

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