住宅市場縮小に旭化成ホームズが出した奥の手 支払額軽減住宅ローンでさらなる差別化図る

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ところで、新ローンでは従来とは異なる融資の手法が採用されている。既存住宅ローンの貸し付けは主に人の与信能力(信用力)に対して実行されていたが、新ローンはそれに加え、土地の資産価値、そしてロングライフ住宅「ヘーベルハウス」という建物の資産価値も審査対象となっている。

旭化成ホームズでは60年点検システムを導入しており、長期的な維持管理を実施し、その履歴情報も含め、耐震性などの建物の健全性を明らかにする取り組みを早くから行っており、これは住宅の長期的で持続的な活用を可能にするものである。

新ローンは要するに、20~30年でスクラップ&ビルドされてきた従来の一般的な住宅と、ヘーベルハウスには大きな異なる点があると評価するとともに、それを大前提としているのだ。

金融機関も持続可能社会の実現に注目

こうした項目はこれまで金融機関がほとんど評価してこなかったことだ。では、なぜ新生銀行は今回の新ローンで評価項目に加えたのだろうか。金融機関を含む大きな経営環境の変化があるからだ。

「SDGs」や「ESG」などの考え方が浸透し、企業価値を決定する要因となりつつあるが、金融機関はそれらの指標に対応する商品を持っていない。だから、お金の融資先に持続性のある商品を持つ企業やその顧客を選ぶことで対応しようとしているのだ。

もう1つは、住宅ローンを巡る市場環境の変化があげられる。元々、住宅ローンは担保(取得する住宅と土地が対象)がしっかりしており、かつ返済が滞るリスクも比較的少ない金融商品である。そのため、従来は生保なども含め多くの金融機関が参入していた。

しかし、少子高齢化による住宅需要の減少局面と超低金利政策により、競争が激しくなり収益を得にくくなっている。そのため、現在は主要銀行の中には住宅ローンの取り扱いから撤退するケースもみられる。ネット系金融機関の台頭も著しい。これは店舗出店費用の負担が少ないことやネット活用などで、金利の安さや審査スピードの速さ、繰り上げ返済の手数料無料化など、大胆なサービスを提供できるためである。

新生銀行は上記のような厳しい環境の中で差別化を図る目的から、旭化成ホームズに新ローンを提案したという。また、世帯年収が高いなどの特徴がある旭化成ホームズの顧客に住宅ローン以外の金融商品を販売することで、収益を得ることも視野に入れている。

ちなみに、新生銀行はネット系金融機関などの新興勢力の1つで住宅ローンのシェアは全体の1%に満たないが、繰り上げ返済の手数料無料化に業界に先駆けて取り組んだ金融機関である。新ローンは前述したようにかなり厳しい制限があり、取り扱いが開始されたばかりであることから、どれくらいの利用があるかについては旭化成ホームズ、新生銀行ともまだ手探り状態にあるようだ。

正直なところ、筆者は新ローンの急激な取り扱い増加はないだろうと感じている。しかし、営業担当者らの運用がこなれてくるようであれば利用状況は次第に向上するのではないかとも考えている。

そして何より、支払額軽減住宅ローンは長期点検システムや履歴情報システムを導入しているほかの大手ハウスメーカーの利用も始まるのではないかとみている。新ローンの発表後、大手数社に取材したが、「(この種のローンの)活用はありうる」という関係者の声を確認できたからだ。

いずれにせよ、住宅の長期使用や点検・補修・リフォームなどの継続的な実施とその履歴情報の保有と公開は、これからの住宅業界の中で生き残りを図るためには必須だ。住まいを資産価値と考える視点もより社会に浸透するだろう。少子高齢化と人口・世帯の減少の中で縮小することが間違いない住宅市場だが、その一方で「人生100年時代」という新たな価値観も広がりつつある。

そうした中で、これまでにない工夫や取り組みが求められているが、支払額軽減住宅ローンという、これまでに変化が少なかった住宅ローンの分野に新たなかたちが登場したこと自体、時代の様相の変化を強く反映したものだといえる。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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