大増刷「韓国・フェミ・日本特集」はなぜ売れたか 86年ぶりに3刷「文藝」が売れた理由

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井口:フェミニズムについて、勉強しないと発言できないみたいに思ってた人も多かったかもしれないけど、ここ数年で変わりましたよね。

私はフェミニズムを男女平等とか性差別をなくすというような意味で使っていますけど、違う受け取り方をする人もいます。でも、だんだんイメージが変わりましたよね。『文藝』の特集タイトルに使われたりしたことによっても変わりましたよね。

『ヒョンナムオッパへ』(チョ・ナムジュほか著/斎藤真理子訳/白水社)

坂上:正直、文学と「イズム」は相性がそんなによくはないので、使うかどうかは迷いました。白水社がその前に刊行していた『ヒョンナムオッパへ』というアンソロジーのサブタイトルに「韓国フェミニズム小説集」とあったので、それは後押しになりました。

斎藤:雑誌って、空中に浮遊している気分を集めてきて凝縮する勢いがありますよね。

井口:文学とフェミニズムが共存しているのが、当たり前のことなのに、新鮮でした。

坂上:この特集号で、女性の定期購読者が一気に増えました。でもびっくりしたのは、表紙のチョ・ナムジュさんのお名前の横に「『82年生まれ、キム・ジヨン』の作者」と説明も付いていないのに、この号が売れたことです。海外の作家の名前って、なかなか覚えてもらいづらいので。

斎藤:そうそう、私も思いました。まず、日本の作家の名前と、ハングル付きで韓国の作家の名前が並ぶというのが、こういう時代になったんだなと、すごく感慨深かったですね。

井口:やっぱり、「韓国・フェミニズム~」というテーマでピンときたのかもしれないですね。近年フェミニズムの本のコーナーも書店にできてきて、『キム・ジヨン』は、その先人たちのお陰もあったと思います。

『キム・ジヨン』が出てからは、『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン著/すんみ・小山内園子訳/タバブックス)や『ヒョンナムオッパへ』(チョ・ナムジュほか著/斎藤真理子訳/白水社)と一緒にイベントをやったり、『エトセトラ』という雑誌も出たり、最近は『三つ編み』(レティシア・コロンバニ著/齋藤可津子訳/早川書房)と書店で並べられていたり。やはり相乗効果があったと思います。

坂上:『エトセトラ』を出しているエトセトラブックスという出版社は、フェミニズム専門として日本で立ち上がった出版社としては初めてですからね。また、今年は直木賞候補者が全員女性だったことも話題になりましたよね。

“民間外交”としての文学

「フェミニズムと韓国文学」で企画された棚(写真: 銀座 蔦屋書店)

坂上:今回『文藝』で「フェミニズム」をテーマに書き下ろしを依頼するのは、正直難しいことだと思っていました。先程も申し上げた「イズム」という言葉を特集タイトルに使うかどうか迷いもありましたし。自由に書いてくださいとは言いながら、その人にとっての韓国とか、その人にとってのフェミニズムという、いつも作家が使っている小説脳とは違うところも使ったうえで創作しなくてはいけないだろうな、とも思っていたので。

フェミニズムというと、さっき井口さんがおっしゃったように、いまだにやや一面的に捉えるような勝手なイメージが先行しているところがあるので、「フェミ作家」と直接は言われないだろうけれど、そのリスクを引き受けたうえで書くということでもありますし。

なので、皆さんに引き受けていただいたのは非常にありがたかったですね。『文藝』のリニューアルコンセプトとして、海外の作家からも日本の作家と同じように、雑誌のための書き下ろし原稿をもらいたいという思いがあったのですが、こんなにOKをいただけるとは思わなかったです。

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