大増刷「韓国・フェミ・日本特集」はなぜ売れたか 86年ぶりに3刷「文藝」が売れた理由
斎藤:これまでの交流があるので可能だったと思います。例えばパク・ミンギュさんは、書き下ろしはすぐにはできないけれど、協力したいと思うから、雑誌に発表したままで単行本に収録していない3編の中から選んでくれ、と言ってくださった。断られた方も、みなさん「協力したいんだけど、ごめんなさい、また機会があれば」という感じで、とてもいい雰囲気でした。一種の民間外交のようなものかなと思います。
それとぜひ申し上げたいのは、ハン・トンヒョンさん、姜信子さん、MOMENT JOONさんという、いわば韓・日の間に立つ方たちにすばらしい原稿をいただいたのが本当によかった。
特集企画当初から、在日韓国・朝鮮人やニューカマーの人たちの声をぜひ入れたいと思ったけど、それは別の1冊になるほど重要な論点なのだから、ごちゃごちゃに入れ込んでしまっていいのかという葛藤もありました。
けれども結果的には非常に生き生きした、この本の1つの目玉といえるほど重要なページになり、これが雑誌という媒体の魅力だなと再確認しました。増刷につながったのはこの3人の方の力もとても大きかったと思います。
それにしても雑誌なのに増刷するとはすごいですね。
これまではありえなかった増刷
坂上:発売前からSNSなどでちょこちょこ宣伝していたら、反響がいいなと思ってはいたんです。「これはヤバい、売り切れちゃうんじゃない?」と冗談で言っていたら、本当に発売3日で……。そんなことはこれまでなかったことなので。
斎藤:Twitterに「なぜ増刷しないのか」という声がたくさん上がったのを見て、ああ、みなさん雑誌と普通の本を同じように思っているんだなと思って。流通を含めたものづくりとしての「本」の世界というのは、全然知られていないんだなと。
坂上:書籍と雑誌の扱いはまったく異なりますからね。取次からの配本の違いもありますよね。
『文藝』は17年前にも増刷したのですが、そのときのことは社員で覚えている人が少なくて、社内中を駆けずり回って情報を集めました。営業担当がこれはいけるのでは、と思って上に聞いてみたら「おまえ、何を言っているんだ。雑誌の重版なんかありえないだろう」と最初言われたぐらいに(笑)、ほんとありえないという感じで。