平山朝治著作集〈全5巻〉 平山朝治著 ~現代社会の新たな学知を切り拓く偉業
偉業である。著者51歳にして堂々たる著作集の刊行だ。世に才を受けて生まれた者の、渾身の業と言わねばならない。経済の哲学に立脚しつつ、現代社会の新たな学知を切り拓く。その脱領域的で多方向的な探究に、深く敬意を表したい。
第1巻と第2巻は、著者が大学院生時に刊行して話題となった、社会哲学に関する2冊の増補版。いずれも学問が危機的状況に置かれた四半世紀前の状況を克服する記念碑的作品だ。
とりわけ第2巻所収の論稿「社会資本整備は『相続国債』の発行で」は、当時の政治に大きな影響を与えた。結果として金持ち優遇政策に変貌して実現されたものの、著者の政策ビジョンは確かな眼を持っていたことがわかる。
第3巻は、貨幣の起源を論じた独創的論稿を集めたもので、日本最古の貨幣がキリスト教に通じることを明らかにしている。背景にあるのは、仏教とキリスト教に通底する交易の存在。歴史資料のスリリングな読み解きが光る。
第4巻は「家」と「個」をめぐる日本の歴史と現代を論じた諸論稿。面白いのはその約3分の1を占めるアイドル論だ。山口百恵から松田聖子を経て浜崎あゆみまで、アイドルの母性を日本史の文脈に落とすという、秀逸な大衆文化論になっている。
最終巻は天皇制論。男系主義を排して、女系継承容認論を展開する。しかも今日の皇室典範を改正するための私案を提起するという大変野心的な試みだ。
著者は、近代経済学者の根岸隆先生に師事したというが、その根岸先生は東大退官に際して、以後は神学者の北森嘉蔵氏のような仕事をしたいと語られたという。だが著者は若くして経済の神学を求め、これを物にした。日本経済の精神がここにある。
ひらやま・あさじ
筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授。1958年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。東京大学助手などを経る。
第1巻 増補 社会科学を超えて─超歴史的比較と総合の試み
第2巻 増補 ホモ・エコノミクスの解体
第3巻 貨幣と市民社会の起源
第4巻 「家」と個人主義─その伝統と今日
第5巻 天皇制を読み解く
中央経済社 1680~3780円 254~618ページ
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