日本国の正体 政治家・官僚・メディア──本当の権力者は誰か 長谷川幸洋著 ~「国家の正体」は政権交代によって変わるか
日本国の正体とは何か。そして本当の権力者は誰なのか。著者の答えは、霞が関、つまり官僚である。新聞が霞が関の補完勢力になったと論じ、官僚にとっての政権とは、「お支えする」対象であると同時に、自分たちの権益を守るための「一時的な枠組み」にすぎず、天下り構造のような自分たちの大切な権益が失われるようならば、倒閣さえも狙う、と断じている。
著者は、長年ジャーナリストとして活躍し、政府の審議会でも重要な役割を担ってきた。その著者の切り口は、「情報」の意味である。官僚側が持つ情報を複数の記者たちが争って得ようとする結果、官僚による「情報の売り手独占」の状態となる。その結果、記者は官僚の代理人、つまりは何でも意のままに操られてしまう人形のような存在になってしまうのだという。著者は、「官僚にとって、記者に与える特ダネとは、代理人を育てる飼料のようなものだ」とまで表現している。しかもこの状況は、記者がまじめに仕事をしようと頑張れば頑張るほど、ますます官僚にからめとられていく結果として生じるのだと論じる。そこにあるのが、記者クラブや新聞社の組織という構造の問題である。
政治家と官僚の関係も辛辣に分析されている。著者によれば、官僚は、「ご説明」や「刷り込み工作」によって政治家を自分たちに都合のよい方向へと誘導することに長けている。メディアや国民に見えないところで根回しを行い、議論の要点をこと細かく教えているのも彼らだ。「官僚機構に時間制限はない。官僚は永遠である。だが、ときの政権には必ず時間制限がある。時間が官僚に味方する。これが本質である」。著者のこの見解は、民主主義論の再考を促す深い指摘ともなっている。
政治というものがいかに複雑な仕組みで動いているのか、またその複雑さを国民に伝えるべきメディアが抱える難しさがどれほど深刻か。では、いったいどうすればよいのか。著者の提案は、記者が官僚に対する情報依存から脱することであり、そのために取材源の多様化を進めることである。そして、新聞社が記者の取材体制を自由化することだという。
しかし、核心的な問題が残される。「政治」自体の自立だ。政治家が自らの考えを自分自身の言葉で語れるようになること、それが選挙によって国民から選ばれた代表たる者の基本的な資格である。総選挙前に描かれた「国家の正体」は、鳩山民主党への政権交代によって変わるのだろうか。いずれにしても、本書の指摘を念頭におくことは、鳩山政権の今後を見るうえで大いに役立つであろう。
はせがわ・ゆきひろ
中日新聞論説委員。1953年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。77年、中日新聞社入社。87年、東京本社(東京新聞)経済部。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で国際公共政策修士。ブリュッセル支局長などを経る。
講談社 1365円 221ページ
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