トイザラスに見る「圧倒的強者」の転落パターン 「eコマース」という新規事業をつかみそこねた

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そういう意味では、初期対応こそが何よりも大事。後日談的に言えば、1990年代後半においてトイザラスにとって大きな収益を生み出していた既存の実店舗の業績を短期的に落としてでも、まだ赤字しか生み出していなかったオンライン事業でのイートイズなどとの戦いを優先させるべきだったのでしょう。

しかし、その当時、その意思決定に関わる立場にいたとしたら、そこまで思い切った意思決定ができたか。その問いに正面切ってイエスと言い切れる人は多くないでしょう。それだけにこのトイザラスの題材は、経営者にとって重い問いを投げかけるのです。

トイザラスを通して見えてくる「レンズ」とは

このトイザラスの事例は、「ビジネスを見るためのレンズ」の存在を私たちに気づかせてくれます。

私たちは普段、無意識でいれば、既存のビジネスにフィットしたレンズを通して物事を見ています。そのレンズは、既存のルールの中において正しく競争に勝てるかどうか、与えられたKPI(重要業績評価指標)や目標を達成できるかどうかをしっかり見つめることを助けてくれます。そして熟練すれば、そのレンズはより細かいポイントを精度よく映し出してくれるでしょう。

しかし、どれだけ優れたレンズであっても、1つの世界しか映し出してくれません。それ以外の世界を見たいのであれば、別のレンズを持たなくてはならないのです。そして、ルールの変更に気づくためには、使い慣れたレンズをいったん手放して、新しいレンズを通して世の中を見つめてみる必要があります。慣れないために焦点は合いにくいかもしれませんが、使っているうちに徐々に解像度高く物事が見え始めてくるでしょう。

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さて、もちろんレンズというのは比喩であり、本質は「頭の使い方」にあります。

例えば私たちの過去1週間の活動を振り返ってみましょう。目の前にあるルーティン業務から離れて、3年後の世界から、異業種から、過去事例から……といったような高い視座で自分たちの業界を俯瞰的に考えた時間は何時間、あるいは何分あるでしょうか?

すぐに返さなくてはならないメールや提出しなくてはならない資料、そういった多忙な環境において、そんな視座で物事を考えるというのは一見非合理的のように思えます。

しかし、日頃からそういう癖をつけておかなければ、高解像度のレンズを手に入れることはできず、いざというときに既存のルールに引っ張られた中途半端な対応しかできなくなってしまうのです。

トイザラスは、この変化の激しい時代において、「解像度の高い新たなレンズ」を持ち合わせているか、という本質的なメッセージを伝えてくれる事例なのです。

荒木 博行 学びデザイン社長

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あらき ひろゆき / Hiroyuki Araki

住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、株式会社学びデザインを設立。フライヤーやNewsPicks、NOKIOOなどスタートアップ企業のアドバイザーとして関わるほか、絵本ナビの社外監査役、武蔵野大学で教員なども務める。『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など著書多数。

 

 

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