横浜市より人口増加率高い「神奈川の町」の変化 住民も認める「特徴のない町」で何が起きたか

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一連のブランディングの効果はさまざまなところであらわれた。『かいせいびより』は2017年12月、ふるさとパンフレット大賞で優秀賞を受賞。2018年には「広報かいせい4月1日号」の特集写真が神奈川県広報コンクールの最優秀賞に輝いた。

そして2019年、今度は「開成町の地下水でつくったサイダー」が、日本パッケージデザイン協会主催の「日本パッケージデザイン大賞2019」で一般飲料部門の銅賞に選ばれた。このサイダーは、開成町の地下水を町内外にPRするために小田原市内の業者と町が共同開発した。

38年ぶりに自家醸造を復活した酒蔵

こうして町の認知度が高まっていくなかで、活性化につながる動きも出てきた。後継者不在で自家醸造を中止していた歴史ある酒蔵が、2018年に38年ぶりに自家醸造を復活させたのだ。慶応元(1865)年創業の瀬戸酒造店だ。

地域おこしの依頼を受けたコンサルタント会社が、自ら酒造りに関わることを決めた。杜氏を探し、新しい井戸を掘って仕込み水を確保し、2018年3月から酒造りをスタート。5月に38年ぶりの新酒が誕生し、6月の「あじさいまつり」では直売所で販売。観光客にも「開成町の酒」を強くアピールした。

住民の意識にも変化が見られるようになった。町民を対象とした意識調査(2018年度)で「住み続けたい」との回答が82.3%に達し、前回調査に比べ5.7ポイントも上昇した。また、毎年6月に開かれる「あじさいまつり」を中心に観光客が訪れているが、その数は2004年度の約21.7万人から2017年度は約25.4万人へと増加している。「住みたい人」「訪れた人」ともに増えているということだ。

開成町は農業地帯が広がる北部地域を「ふるさとゾーン」、町役場がある中部地域を「くらしゾーン」、開成駅を中心とした南部地域を「ときめきゾーン」と位置づけて街づくりを行ってきた。それに加えて足柄上郡5町が一体となった「あしがら地域広域ビジョン」を策定し、広域連携にも力を入れている。

もちろん、ブランディング以外にも、子育て支援、住宅支援、就業、創業支援など「住み続けたい町」づくりに向けた政策にも取り組み、現在は「第五次開成町総合計画」の後期基本計画が2019年4月からスタートした。田舎モダンの開成町が、この先どう変貌していくのか。注目してみたい。

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