井上尚弥を「無駄遣い」と無縁にした父の教え トップボクサーが語る「ファイトマネー」の話

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ファイトマネーは戦うモチベーションの1つを占めている。1試合1試合、結果を出すにつれファイトマネーが上がる。わかりやすい成果主義。デビューからどんどん上がっていっているのだ。職業・ボクサー。当然、モチベーションは上がる。試合のファイトマネーの金額は、試合が決定すると同時に、大橋会長から父を通じて知らされる。

「今回いくら?」

「××××だよ」

そんな会話で終わり。

ここまで、父も僕自身もファイトマネーに対しての不満はいっさいない。「プロボクサー・井上尚弥」の価値を十分に評価していただき、今現在の僕の実力に相応の金額をもらっていると思っている。プロ転向以来、大橋会長との信頼関係が崩れないのも、お互いに何もクエスチョンがないからだろう。

父も、「尚の商品価値どおりの金額。オレも大橋会長もお互いに欲がないから、これまで1度も、いざこざがないんだろうな」と言っている。

時給850円のバイトで汗を流した理由

ファイトマネーの話をするのは、試合が決まったときだけ。そこから試合に向けてのトレーニングが始まり、試合が終わるまでファイトマネーについて考える機会は、まずない。ファイトマネーは、決戦への準備を始めるヨーイドンの号砲みたいなものかもしれない。

現在は、父のアドバイスで法人を設立してあるので、ファイトマネーはジムから会社への銀行振り込みだ。記帳したときに、その数字の桁を見て、「よく頑張りました」と実感することになる。昔は「ファイトマネーの重みを知っておきたい」との理由で、紙袋に札束をごそっと入れて現金でファイトマネーを持って帰ったボクサーもいたらしいが、僕にその趣味はない。

「ファイトマネーには手をつけるな」

「無駄遣いをするな。将来のために貯蓄しろ!」

それがプロになってからの父の教えだった。

社会常識から外れていない金銭感覚と経済観念はある。小学生の頃は、家事を手伝った際に、その報酬として「100円」「200円」のお小遣いをもらっていた。高校生のときには、半年間、アルバイトをした経験がある。

父に、「社会常識を知る、社会勉強のつもりでアルバイトをしてみなさい。決まった時間に決まった仕事を毎日して、自分でお金を稼ぐ大変さを経験してみなさい」と言われ、知人を頼って自分で仕事を見つけた。時給850円の工場での仕分け、梱包などの流れ作業。焼酎のビンが詰められた重たい荷物なども運ぶのだが、「それなら筋トレ代わりになる」と、働かせてもらった。

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