ヒトの便を解明する元サッカー日本代表の野望 鈴木啓太38歳、19年秋大手企業から3億円調達

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アテネ五輪アジア最終予選のUAEラウンドでは、日本代表選手23人中18人が下痢の症状を訴える中、コンディションを崩さなかったのも、鈴木氏が腸を大切にしてきたことと決して無関係ではないだろう。

今でこそ、腸内環境を整える「腸活」がブームとなり、腸内環境を整える食品が注目を集めているが、当時は「腸活」という言葉も「腸内フローラ」という言葉もなかった。そんなときから、腸を大切にしてきたからこそ、アスリートの腸を社会のために生かすことが、自身の役目だと考えている。

研究が進む腸内細菌

人間の腸内には、多種多様な細菌が生息しており、その数は、約1000種、100兆個以上と言われている。腸内細菌は、大きく分けて善玉菌と悪玉菌、そのどちらでもない日和見菌(中間菌)の3グループで構成され、善玉菌が優勢に働いている状態のときは「腸内環境がいい」とされている。

近年では、腸内環境は、消化器疾患のみならず、免疫・アレルギー、メタボリック症候群、さらには脳神経疾患などの要因になることが明らかにされつつあり、現在も、世界中で研究が進んでいる。

スケルトン日本代表・小口貴子選手に検査結果を報告する様子(筆者撮影)

そんな中、鈴木氏が代表を務めるAuB(オーブ)は、2018年3月に「アスリートと一般人の腸内環境の違い」を発表し、さらに、同年9月には「高齢者アスリートと運動習慣のない高齢者の腸内環境の違い」を発表するなど、次々と研究成果を発表。

続く10月には、アスリートの腸内には一般の人と比べて「酪酸菌」が約2倍あるという研究結果を得た。2019年に入ってからも、腸内環境のデータを基に、腸内細菌の種類や数、構成のデータを機械学習するAIシステムを開発。サッカー選手と一般人を対象に、腸内環境のデータをAIで読み取ると、70%の確率で、どちらの集団に属するかを見分けられるようになるなどの成果を上げてきた。その間、アスリートを中心に集めた便の検体数は2200〜2300に及ぶ。

2019年春には、複数の投資家からの資金調達に成功すると、新たにフードテック事業へ参入する。これまでの4年間で得た知見を生かし、酪酸菌をメインに、29種類の菌を配合したアスリート菌ミックスを開発し、それをベースにしたサプリメント「AuB BASE(オーブ ベース)」を発売するところまできた。今後も、アスリートに特有の菌の発見、さらに特許を取得しながらサプライヤーとしていろんな企業に提供していくことを視野に入れているという。

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