第12回(最終回)海外本屋事情

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海外で本屋として働くこととは、衣食住ではない部分での生活習慣である読書に根ざした商売をすること。
 よってこれまで書き綴ってきたように、文化や経済や政治や宗教といった部分で、日本との違いを再確認してゆく作業の積み重ねとなる。この作業は楽しくもあり辛くもあり、すぐに確認できる部分もあれば、時間を掛けて吸収していかないといけないものもある。

 ではシドニーで、もしくは海外で本屋をやっている楽しみとは? それは各地の人たちと言語をはじめ人生の様々な背景が異なっても、読書体験を共有できることだと思っている。
 『偉大なるギャッツビー』の原著を自分が読み、英語がネイティブのスタッフに自分の好きな英語のフレーズを紹介する。
 『コーラン』の日本語訳を陳列しながら、アラビア語の三島由紀夫を読んだスタッフの感想を聞く。
 英語で村上春樹を知ったスタッフと、日本の文学について語る。
 あるいは中国語で『ONE PIECE(ワンピース)』を読んでいるお客様から、極東の島国から海賊冒険譚が出てきた発想の不思議を尋ねられる。
 本が好き、読書が趣味という人間として、こんなに楽しいことはない。

そして本の販売から派生して、様々な交流も生まれる。
 現在シドニー店では手芸書フェアを開催中。そしてお客様参加型企画として、日本の伝統である千羽鶴をお客様に折っていただくという企画を用意したところ、髄芽腫で入院中の女の子が千羽鶴を欲しがっているとのメッセージをいただいた。快癒を祈願して進呈を即約束。
 当初1か月で千羽も折れるか危惧していたが、来店いただいたお客様の善意で千羽を超え、二千羽ももうすぐ、と鶴は増えている。
 書店の手芸書拡販企画から出発した折り紙企画が、千羽鶴に発展して、そして闘病中の子に届くことになる。
 陳腐な美談にしてはいけないけれど、書店イベントが良い形で昇華した例だと思う。

今まで働いてきた人たちの出身国は20か国を超える。これからも増えていくだろう。
 本屋であるからにはどこへ行っても、「本が好き」という共通性があるはず。それが英語版の『ドラえもん』であろうと、フランス語版の『宮本武蔵』であろうと、ドイツ語版の『武士道』であろうと、アラビア語版の『窓際のトットちゃん』であろうと、本好きに国境はない。
 さらなる本好きとの出会いを楽しみに、今日も本を売っていこう。(了)

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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