商売敵。文字通り敵として争う相手から共闘仲間とでも言うべき存在まで、その立ち位置は幅広い。
ネット書店や電子書籍も売上的には競合だけど、やはり気になる存在は、街にある別の本屋さん。国によって当然競合事情も異なってくる。
そんな日常で耳目にすることをいくつかお届けしたい。
筆者がシンガポール店にいたときのこと。20世紀末のシンガポールでは、日本のバブル崩壊、そしてアジア通貨危機に見舞われる。ただでさえ大変な時にアメリカから巨大チェーンのボーダーズ海外1号店が、800坪を越える巨大店を道路のお向かいに出店、正に黒船来襲だ。
ただ単に本を購入するだけの場所であった本屋が「本に囲まれた豊かな時間を過ごす場所」となり、「友人や恋人との待ち合わせ場所」へと昇華、東南アジアにおける書店の認識を一気に変革してしまった。
本屋へ行くこと自体が目的になるような品揃えと、アメリカ流の各種店内イベント、さらに積極的な価格操作によるマーケティング手法も目新しく、売上面では酷い目にあったけれど、学ぶことの多い競合店であった。
とても成功していた店なのに、アメリカ本国の事情で撤収したのは大変寂しい限り。
ドバイ店にいたときのこと。
イギリス人女性が30年ほど前に立ち上げた地元書店が好きだった。
元々駐在する英国子弟のために手作りで始めた店で、学校教材や制服まで売っているような店だった。
いかにも英国の本屋という空気が良かったし、100名以上の作家を招待して数日間にわたり行っていた文芸イベントなどは、王族がスポンサーについて日本でも実施できないような充実したものであった。
諸問題で小売部門を縮小してしまったのは残念だけど、文芸イベントは現在協働で続けている模様。アラビア語書籍の仕入など、ご当地事情に無知な我々にいろいろと教えてくれたことを今でも感謝している。
シドニーではDymocksという、これまたブリティッシュな感じの本屋の存在感が際立つ。
目抜き通りに面した自社ビルの下層階を書店として展開しているという構成は、むしろ紀伊國屋書店の新宿本店とそっくり。
そして古い洋書の独特の紙の匂いに包まれたフロアは、20年近く昔の入社当時を思い出す。
「マンガなんてものは置いてません!」という正当派品揃えは、商売的にはどうであろうか?と思いつつ、誇れる競合として重厚感満点。
日本人が外国で英語を母国語とする人たちに英語の本を売る。そして現地競合店と競う。何をもって競うのか?
もちろんそれは本に出会う楽しみ、そして本を買って保有する楽しみの演出である。
言語も文化も宗教も超えて、本を思う気持ちに国境はない。
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