第8回 海外接客事情

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「いらっしゃいませ」から始まり「ありがとうございます」までの一連の接客の流れ。これはデパートからコンビニまで、日本では業種を問わずお馴染みの接客スタイルだ。
 しかし接客も御国事情によりけりだ。良し悪しではないけれど、幅広い。
そんな日常で耳目にすることをいくつかお届けしたい。

シドニーではカジュアルな服装で接客する

ご当地のオージーは「フレンドリー」という言葉が、服を着ているような存在だ。英語に敬語がないとは言わないが、ここでは相手による言葉遣いに変化が見られない。
 馴染みのお客様、そして年上の方に対しても「やあジョン。久しぶり」と友達感覚。愛想は良いので「How are you?」「How was your weekend?」と会話を挟みつつ、接客をこなしていく。
 この辺りは口ベタ日本人としてぜひ見習いたい。そしてお客様を呼び捨てにするくらいなので、上司も当然そうなる。学生バイト君に「やあ、山田。どう元気?」などと言われると、職場で呼び捨てにされたの十何年ぶりだな・・・・・・、と新入社員時代をふと思い出す。

 ここで耳を慣らすと、シンガポールを始め英語が母国語でない国での英語の接客用語は、大層ぶっきらぼうに聞こえる。
 「May I help you?」という決まり文句のあとに「What do you want?」と続くと、「お前、どうしたいんだ?」と突然言われている気がする。本人は「何かお探しですか?」のつもりだけれど、やはり耳に違和感が残る。
 この辺りは愛想・無愛想といった国民性に加えて、同じ単語を使用していても受け止め方に幅が出てくる、リンガ・フランカ(世界的な共通語)としての英語の性質もあるかもしれない。

 多民族国家であり東南アジアのハブとしても機能するシンガポールでは、逆に英語ではない接客ケースも多い。中国語、マレー語は当然として、ヒンディーや、マレー語に近いインドネシア語、日本語も聞こえるし、タイ語やベトナム語も耳にする機会に恵まれる。
 特に迷子の場合、話しかけても泣いてばかりいて返事をしない、というケースも多く、動員できる言語全部で店内放送という力技が日常茶飯事であった。

ドバイでは男性に対してこの笑顔で

ドバイはさらにカオスな言語状況なので、逆に英語は必須。しかし言葉ではない部分での苦労は耐えない。基本的に西洋人は「目を見て笑顔の接客」を好むし、中産階級以上のインド人なんかは語尾に「Sir」をつけたりといった、敬意をスタッフに求めてくる。
 アラブ人男性は握手なども含めた距離感の近い接客を好み、うっかりすると出身や家族構成や学歴といった、書籍と関係のない質問責めにあってしまう。

彼女たちの接客にはとても気を遣う

逆にアラブ・ウーマンに対しては「こちらから話しかけるな」「お客様を見てはいけない」「話す時は目を常にそらせ」「直接本を手渡すな」と宗教的戒律に従った、非常に無愛想な接客を求められる。とは言え、自家用ジェットを持っている人から、「今日、エスカレーターに生まれて初めて乗った」という原産地直送の人まで来店するので、接客は常に度胸がキーワードなのだ。

 本を買うという行為においては、オンライン書店の方が手軽である。在庫の有無も瞬時にわかるし、重い本を持ち帰る必要もない。
 しかし様々な人間が間に介在するからこそ、商売は面白い。
 オンライン書店では決して生じ得ない人間同士の接客。それが品揃えや立地、価格よりも大切なことであるという点において、本屋に国境はない。

 

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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