第7回 海外労働事情

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「海外で働く」からには、仕事の内容と同じくらい大切な話題がお給料。
 前向きな格差社会ドバイにおいて、上は月収数百万円の人間が存在する一方で、フィリピン人やインド人のカフェ店員で7万円少々。ここから家賃や交通費を2万円ずつほど捻出、さらに故郷に仕送りし家族7人を養ったりして、皆とても偉い。

小売最低賃金については、事細かに設定されて明快で、誰でもアクセスできるように公開されている

ご当地シドニーでは、現在の小売最低賃金がなんと時給1600円以上。午後6時以降や土曜日には手当が支給され、日曜日は通常時給の1.8倍が法定となっており、レジを打っているだけで時給3000円。そしてそれが最低賃金。自分が週末バイトをしたいくらいである。

稼いだからには代償として払わなければいけないもの、それが税金。手厚い福祉国家であるオーストラリアは税率も高く、消費税からしてまず10%である。
 もちろん所得税もしっかり徴収され、うっかりすると4割くらい平気で取られたりする。逆にドバイは単純明快で消費税も所得税もなし。稼いだ分だけ懐に、というスタイルは清々しい。

 契約社会である欧州の系譜にあるオーストラリアやシンガポールは、何かにつけて明文化がされており、これがまた悩ましい。特にオーストラリアでは仕事の業種・職種・責任区分などが細かく法律で定められており、「後輩3名まではこの時給で、4名以上ならこの時給」と設定されており、ビジネス環境に応じた柔軟な組織が成立できない。

そして労働環境もきっちり規定化されている。非常口の設置や午前と午後10分ずつのティータイムはよしとして、20kg以上の物体を1人で運ぶのは違法とか、キズテープ(絆創膏)が救急箱にないと違法というのは、なんともきめ細かい。
 超人ハルクみたいな骨太オージー・ガイが「この箱は重いから運べないよ~」とか言うのを聞くと、自分が代わって運びたくなる衝動に駆られる。

しかし「非明文」というのも困ったもので、宗教や慣習に関わる事柄は、どこの土地にいっても慎重にならざるを得ない。

「アラビア語は読めない」と言ったらプレゼントされたバイリンガル・コーラン

仕事中でも礼拝の時間になると一斉に姿を消すドバイのムスリムスタッフたちは、神との対話に勝る重要事項はないという認識なので、勤務時間中にスタッフがいなくなるマネージャーの苦悩は彼らに届かない。

戦争中や旅行中は礼拝を時間通りにしなくてもよいとコーランに書いているが、本屋勤務については残念ながら触れておらず、彼らとマネージャーの認識は永遠に一致しないのである。

年金の制度や有給休暇、保険に各種手当と働くために必要な知識にはきりがなく、各国の違いを学ぶにつけて、言葉や食事だけではなく仕事に対する文化の違いが見えてくる。

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がしばしばオーストラリアでは使われる。文字通り仕事と生活のバランスであり、いくら仕事が大切でも生活とのバランスを取ろう、という趣旨で使われる。「ライフ・ライフ・バランス」の人も散見されるけれど、日本で使われる「社畜」なんていう言葉よりずっと素晴らしい。

本を1冊ずつ注文して仕入れて陳列して、という仕事の積み重ねなので、書店勤務は高給取り志望には向かない。
 しかし労働の対価として「給料」以外に、「本に囲まれて働く楽しさ」を本好きスタッフに渡すことで成り立っている。「労働と趣味のバランスが大切」という点において、本屋に国境はない。

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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