井口尊仁というオトコは変人なのか!?

テレパシー・井口尊仁CEOと語る(下)

5億円調達の裏側に隠されているもの

井口 尊仁(いぐち たかひと) テレパシー最高経営責任者(CEO) 1963年岡山県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒業。システムエンジニアなどを経て、96年ジャストシステム入社。マンガをデジタル化して発信する仕組みを開発。99年独立してデジタオを設立し、ブログやSNSなどのシステムを手掛ける。2008年「頓智ドット」を設立し、社長就任。拡張現実を実現するソフト「セカイカメラ」を発表して注目される。2013年「テレパシー」を創業し、CEOに就任。シリコンバレーに本拠地を置き、ウエアラブル端末「テレパシー・ワン」で世界規模の新しいコミュニケーション環境の実現を目指す。

井口:テレパシーで「5億円調達できて、すごいですね」という話をしていただきますが、みんなはあまり言わないのかもしれませんが、その裏には「数多く断られている」わけです。メディアには出てきませんが、たとえば1社から資金調達するには、99社から断られているのです。「断られる」のはものすごく精神的につらいので、それが99社も……半端なくつらいですよ。

本当に1回1回、落ち込みますよ。それに資金調達が決まったと思っても、入金ギリギリまでわからない。悪いニュースが起きたら、簡単にひっくり返りますからね。ファイナンスはいつも瀬戸際なんですよね。

伊佐山:僕の場合も、巨大ファンドを組成して「すごいね」と言われても、ピンとこなかった。明日何かあれば、ゼロになるかもしれない。「ごめんなさい、やっぱり辞めました」となった瞬間終わりですからね。資金調達はニュースでは結果しか見えないので、すごくスムーズに見えて、裏では紆余曲折、ギリギリの勝負。だから、最後にカミカゼが吹かないと成立しません。それは起業に対する情熱や、事業に対する信念など、論理を超えたものです。最後は、予見できない未来への期待に対して“人”が判断するわけですから。

井口:お互い真剣ですからね。僕は起業家精神というのは、メディアなどでクローズアップされている、スナップショットの“いい面”だけでなく、その裏に99%の憂鬱な話があり、「夜寝られない」「胃に穴があきそうだ」「嫌な汗をかく」というところも含めてだと思います。

伊佐山:おっしゃるとおりで、起業家やイノベーターには、大胆に外に出て行くことと同様か、それ以上に、厳しい現実に鈍感でいられるか、失敗に対して立ち直りが早いか――ということが大切ですよね。

井口:「敏感」&「鈍感」ですかね。

伊佐山:まじめに考えすぎる人にはしんどいですよね。本当に敏感と鈍感のバランスが難しい。だから、ロジカルなアプローチで最後まで突き通そうとする人にはしんどい世界で、ある程度、忘れる技術、遮断する技術、自己暗示する技術がないとやっていけない。

井口:これまでの起業家は「いいこと」を言っています。たとえば、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)は「全身で大好きなことを見つけたほうがいい」。スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)も「命を懸けられる仕事を見つけられたのがよかった」。

これはすごく重要で、“普通に” “真面目に” “合理的に”考えると、リスクしかないから、やらないほうがいいという結論になる。それでも、自分が好きだし、楽しいし、ハッピーだから、やり遂げたい。コンプリートしたい。

僕は20歳くらいのときからプログラミングに目覚めて、インターネットも携帯電話もない時代でしたが、「人間が“空気”みたいに普通にデジタルネットワークとつながって、お互いがわかりあえる、助け合える世界に絶対になる」と強く思っていました。それは直感的で、“パキーン”と未来が見えたのです。そして「オレはそれをつくる仕事をしよう」と思ったのです。いちばんコミットしたいと思ったし、それしかやりたくないと思ったんですね。今考えていることも、そうした原体験から考え方は変わっていません。

僕は話題になることを求めているのではなく、製品を多くの人が受け入れてくれて、日々使ってもらうことを期待してやっている。テレパシーでは、そこに到達したい。だから、楽しいのです。一方で、普通にまじめに考えると怖いことしかないから、考える時間がわりとある「土日」は恐怖ですよ(笑)。

伊佐山:井口さんが成功して、井口さんがロールモデルになれば、日本も大きく変わると思います。何が何でも実現に向けて頑張ってください。そのために、僕らも助けます。

(構成:山本智之)

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