英国人に「あなたの経済的豊かさ」を聞いてみた 英国階級調査からわかった人々の複雑な心境

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しかし、ルイーズにとっても実際には金銭は重要であり、彼女も本当はそのことを理解している。労働者階級の出身で、借金に苦しんだ経験のある彼女は、経済状態が安定し、不安がなくなった現在の立場から裕福になったことについてこう話している。

30歳になったときには、年収は10万ポンド(1350万円)を超えてたかしら。台所に食べ物が全然なかったころを思い出すと、よくここまで来られたなって思いますね。

所得は同じでも、境遇が大きく違う

インタビューを分析すると、所得の少ない人々は必需品を購入できず、その生活は抑圧されており、富裕層─―ブルデューの表現を借りれば「必需品に困窮する状態から程遠い」人たち─―は金銭の無慈悲な強い力から距離を置くことができていることがわかる。所得の少ない人も富裕層も、経済分布ではどちらも中程度だと自己評価しているとしても、その理由はまったく異なる。

次に、年齢に差があり、収入は同程度だが境遇が顕著に異なる2人の女性の例を紹介する。1人目のロレインは離婚して持ち家を出て、思春期の10代の息子2人を連れて小さな借家に転居して以来、収入の不足に悩んで生活してきた。

職業はフォークリフトの運転士で、「最低ではないけど、給料はとても安かった」と言う。年収は約149万円と明かした。彼女は住宅の購入を望んでいたが、悩んでいた。いざというときのための540万円の貯蓄があるが、収入が十分ではなく「結局、資金が足りない」と言った。彼女のケースは、離婚して経済状況が激変した人が経験する「ショック」の一例だ。

2人目のシャーロットは定年退職した元教員で、年金と「あちこちからちょっと入る収入」で年収は162万円余り。ロレインとシャーロットの所得は同程度だが、シャーロットは自らの境遇をロレインほど悲観していない。

シャーロットも離婚しているが、子どもたちはすでに成人している。貯蓄も「クッション」になる程度には十分で、自宅は持ち家だ。彼女はやりくりの能力に大いに自信を持っている。

貯蓄できたのは持ち家などの資産があったからだが、彼女自身は、質素に暮らすよう心がけてきたからだと考えている。「所得はそれほど多くありません。けれど、私はやりくりを知っています。しっかりと倹約できる性質なんです」。

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