英国人に「あなたの経済的豊かさ」を聞いてみた 英国階級調査からわかった人々の複雑な心境

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2人のインタビューを分析すると、それぞれ経済資本の中の別の構成要素をやりくりしており、そこからは人々が自身を10段階の単純な経済ランクに位置づけるのは難しいことがうかがえる。

それと同時に、ロレインとシャーロットのどちらも、自身の経済ランクを過去の自分のそれと比較して考え、現在の経済状況を過去の自分の経験に基づいて理解する傾向があることがわかる。

これまでに紹介した例だけで考えても、経済区分は人々のアイデンティティーに決定的に刻み込まれていることが確認できる。しかし、そのあり方は非常に複雑で、「金持ち」「貧乏」「中くらいの収入」「低収入」などという言葉で表現できるほど単純ではない。

イギリスは不平等な国であり、格差はますます広がっていると指摘したところで、人々がその不平等を人生でどのように経験しているか、身近にある格差をどのように感じているかを把握したことにはならない。

格差には、複数の異なる力が働いていることが、ここで紹介した例からもわかるだろう。人々は自分の富を誇示することはないが、同様に、最下層にいるという恥と烙印を認めることもない。

成功と、特別な人生体験を結びつける

インタビューからは、人々には自分の経済ランクを曖昧にしたがる傾向があることがわかったが、それでも私たちは、このような不平等が人々の生活や人生にとって非常に重大な問題であることを強調しないわけにはいかない。

経済資本は多面的で、地理的条件や年齢、世代と深く関連している。地理的条件は住宅資産に多大な影響を及ぼす。貯蓄や不動産は、子や孫たちの進学や住宅購入、起業などの大きな助けになるし、最終的に相続させることもできる。

多くの経済資本を蓄積するには非常に長い時間を要する。それが、自分の経済状況を考える際に、裕福な人や貧しい人と直接比較するのではなく、自身のそれまでの人生を振り返って評価する理由となっている。

人々は自分の経済的成功を、グローバルな社会のさまざまな影響によるものではなく、自分の特別な人生経験と強く結びついたものと考えているのだ。

マイク・サヴィジ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会学部教授

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Mike Savage

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会学部教授と同大学国際不平等研究センター共同所長を兼任。
専門は社会階級と不平等分析。 マンチェスター大学、ヨーク大学で教鞭を執った後、2014年より現職。
著書に、Identities and Social Change in Britain since 1940: The Politics of Method, Oxford University Press,2010; Class Analysis and Social Transformation, Open University Press,2000; Culture, Class, Distinction, Routledge,2009(共著)(『文化・階級・卓越化』 磯直樹ほか訳、青弓社、2017年)ほか。

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