親が悪いと主張する45歳タクシー運転手の半生 500万の借金を肩代わりし、小遣いを渡す両親

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一方で、私は最近、社会的ひきこもりの問題について取材をする機会が増えている。その中で、ある支援関係者の1人が、ひきこもりが増加している背景を、こんなふうに分析していた。

「濃密で、継続的な人間関係を築ける大人が減った、ということがあると思います。以前は、両親がいわゆる“毒親”でも、周囲に祖父母や親戚、近所のおじちゃん、おばちゃんといった両親に代わる大人がいました。

親から否定されても、子どもはそこで自己肯定感を修復することができたんです。こうした関係性はSNSでは代用できません。あるがままの自分を受け入れてくれる大人が減った――。これが、ひきこもりが増えた原因の1つなのではないでしょうか」

少子化が進めば、親が子どもにかける期待は高まる。期待は時に否定の言葉となって、子どもを傷つける。そして、子どもにはその傷を癒やす場所がない。親子関係の貧困は時にひきこもりに、時に経済的な貧困に陥る引き金となるのかもしれない。

今度こそ、人生の再スタートとなるか

ユウヤさんには最近、転機になる出来事があった。数年前、母方の祖父母が相次いで亡くなったのだ。ユウヤさんにとって祖父母のもとは、比較的、居心地のよい場所だった。彼らを亡くしたとき、初めて「両親もいつかいなくなるんだ」と思い至ったという。

実は、来年でタクシーのドライバー歴がちょうど10年になる。現在まで無事故無違反。陽気で、話好きなユウヤさんにとって、タクシー運転手は「続けたいと思える、初めての仕事」なのだという。ユウヤさんはこれを機に、個人タクシーを開業するつもりだ。

個人タクシーを始めるには、設備資金などとして約200万円が必要といわれるが、ユウヤさんは借金があるくらいだから、まだそれらの資金は一円もたまっていない。それでも、今は酒もやめ、浪費癖も改め、節約をしているという。

「最近、ようやく今まで親に甘えすぎていたのかなと、思うようになりました。それでも、いざとなれば(開業資金は)親が出してくれるかな、なんて思っているんですけどね」

またしても、ユウヤさんは人のよさそうな笑顔を見せる。やはり覚悟のほどはつかみきれない。40代半ばを過ぎ、今度こそ、人生の再スタートを切ることはできるのだろうか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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