トランプ大統領再選を阻む影の勢力の「正体」 民主党は2016年と同じ過ちを犯すのか?

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その結果、この頃からグローバリズムが強化され、EUや国連、そしてWTO(世界貿易機関)などの国際機関の役割が増した。だがその後の子ブッシュ政権のイラク侵攻。そしてクリントン時代の外交を引き継いだオバマ政権では、復活したウラジミール・プーチンのロシアとの間で、ウクライナとジョージアをEUとNATOへ加入させる駆け引きが繰り広げられた。

それを完了させるはずだったヒラリー氏が大統領選で負けてしまったことで、アメリカ特別主義を信仰するディープステートたちの野望はとん挫した。さらに悪いことに、アメリカ特別主義の理想ではなく、真逆な「アメリカファースト」という利己主義を掲げるトランプ大統領は、外交に彼らとは異質の人材を登用した。選挙では選ばれていないが、歴代の政権を支え、外交は自分たち専門家が担うべきとのプライドがある官僚からすれば、トランプ政権は、どん手段を使っても早く終わらせる必要がある。

筆者からすると、選挙を控え、民主党を束ねるペロシ下院議長は、このディープステートの思惑に便乗したのだと思う。その背中を押したのが、小委員会委員長で、国家機密や情報分野で実績を積んできた前出のシフ議員だ。ただ、国民の興味という点で少し計算違いがあった。それが今の結果につながっている。

ところで、このディープステートに国際金融のエリートを入れる人がいるが、それは間違っていると断言しよう。なぜなら、国際金融が支配する市場力学は「ディープ」な存在ではない。むしろ、今の時代、外交上も軍事力の脅しの前にかならず経済政策で使われるフロントフェイスの前提条件である。

今のアメリカは本来とは全く違った様相を呈している

その頂点に立つアメリカの中央銀行のFEDは、事実上立法・行政・司法に匹敵する4つ目の国家形態の根幹をなす。だが日本の報道では、「アメリカの中央銀行はFRB」という間違った報道を続けている。言うまでもなく、アメリカの中央銀行はFRB(federal reserve board でなく、FED(Federal reserve system )である。

正確に言えば、連邦国家のアメリカには、日本の日本銀行に当たる組織はなく、その役割は、元々は民間組織の地区連銀(実質NY連銀)と彼らを統括するワシントンの国家機関のFRB(連邦準備理事会)で構成されている。そして政策金利を決定するFOMC(米公開市場委員会)は、FED法とは別のFOMC法で運営されおり、議長はFRB議長が兼任するが、副議長は民間組織のNY連銀総裁が担当する。政策決議はFRB理事と連銀総裁の5人のメンバーによる決議なので、FOMCがオバマ政権からトランプ政権へ移行期のようなFRBから4人、連銀から5人の状態では、FRB理事が議長の下で統一しても、連銀5人が反対すれば、理論上はFRB議長を覆せる。

だが、FED成立は日銀設立よりもずっと後の1913年であることは重要だ。GDPでアメリカが英国を抜いたのは1902年という試算があるが、概ねそのあたりなら、アメリカは中央銀行なしで世界最大の産業大国になったことになる。個人的には、これこそが本来のアメリカの資本主義の偉大さと考えているが、昨今は違った様相になっている。

ある意味、それが今の株高を支えているのだが、最近のNHKでの麻薬所持を扱ったニュースで「段々と効かなくなる、するともっと量を増やす。それでもだめなら別のモノに進む。どんな予期せぬ副作用があるかは全くわからない・・・」という解説が流れたのを聞いて、個人的にはそのニュースの主人公の女優の話ではなく、全く別の人の顔を思い浮かべてしまった。

いずれにしても ディープステートにせよ、中央銀行にせよ、エリートが高邁な理想で突き進んだ結果が常に万民にとって良いことになるとは限らない。次回はそのあたりを具体的に触れてみたい。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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