三越、日本橋本店に「ビックカメラ誘致」の真相 欧米の潮流を受け、家電量販店を初導入

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「マーケット調査をしてみると、日本橋エリアに家電店がないことがわかった。地域の皆さまが困っているので、街に必要な機能を持つ必要性がある。また、百貨店は衣料品販売を拡大して儲かるビジネスモデルをつくってきたが、そこから拡縮(変化)してこなかった。われわれは、アパレルにこだわっているわけではない。売れないのであればそこを縮小して、時代に合った、売れるものを入れていくのが、小売業の使命だと思っている」

「時代に合った、売れるものを入れていくのが小売業の使命」と語る三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長(撮影:梅谷秀司)

杉江社長がこのように考えるようになったきっかけは、1年ほど前のある出来事があった。

三越伊勢丹は、東京・新宿の土地・建物をビックカメラに貸している。その関係からビックカメラの宮嶋宏幸社長が杉江社長を訪問し、「ビックカメラは高級家電を扱っていて、品ぞろえはあるが、お客に訴える場所がない。百貨店を利用する富裕層は家電量販店にはあまり来ず、高級家電に触れることがない。みすみす商機を逃している」と訴えた。

欧米の百貨店が高級家電売り場を増やしていることを知っていた杉江社長は、宮嶋社長の話に「商機がある」と判断した。ただ、「高級家電を自分たちで仕入れて販売するのはとうてい無理」(杉江社長)なため、プロジェクトチームを設置して検討を重ね、日本橋三越本店にビックカメラをテナントとして入居させることになった。

高級家電誘致は理にかなっている

小売業界に詳しい、ある経営コンサルタントは、「日本橋三越本店が品ぞろえ強化の一環として高級家電を取り入れることは、何も驚かない。高級家電のニーズは必ずある。例えば、オーディオメーカーのBOSEは高音質オーディオ機器などを売っており、こういったものを百貨店にそろえることは理にかなっている」と語る。

歴史を振り返ると、百貨店は品ぞろえを柔軟に増やすことで業容を拡大してきた。江戸時代は衣服を中心に扱い、「百貨店化」が進んだ明治時代の後半ごろからは、輸入品への願望が高まっていることを受け、欧米の化粧品や帽子、幼児用服飾品などを取りそろえた。

家族連れの顧客が増えた大正時代には食堂を設けて、和食やぜんざいなどを提供した。そして、1923年に発生した関東大震災を契機に、一般の消費者が生活で必要なものをそろえる必要性を実感し、食料品や一般雑貨、玩具といった日用品を増やしていった。かつては時代の変化やニーズを捉えることが巧みだったのだ。

ネット通販の台頭などの消費者行動の変化をうまく捉えられず、百貨店各社は売り上げが右肩下がりの苦しい状況にある。前出の百貨店中堅社員が指摘したように、三越本店へのビックカメラ誘致は「安売りの家電チェーンが入った」というイメージで顧客に受け止められる懸念もあるが、思惑どおりに高級家電という新しい売り場を確立できれば、販売回復への打開策となる可能性を秘める。

今回のビックカメラ誘致は、業界全体が「百貨店が求められているものは何か」を再考察するきっかけになるのかもしれない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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