年収300万円でいいという女性もいる
太田 私も、ある女性に対して、「圧倒的な結果を出しましょう」って言っちゃったことがあるんですよ。圧倒的な結果って、企業側からするとうれしいけど、現場からは驚くほど「私たち、圧倒的な結果なんて求めていません」という声が上がります。結果を出すのは当たり前だけど、圧倒的はいらないですって。つまり圧倒的な結果=猛烈に24時間働くイメージ、だと。それよりも、仕事だけではなく、プライベートも謳歌したい、結婚もしたい、子供も産みたい。仕事と生活を両輪で回していきたい。
神原 太田さんより上の世代の女性は、1985年の男女雇用機会均等法改正以降、いろいろな「権利」「制度」「待遇」「処遇」を自力でもぎ取ってきました。社内で初の役員、局長を出したといったような自負がある。とてもすばらしいことですし、そのおかげで女性の道が開けてきた。とはいえ、今、「圧倒的な結果」を求めていない20代女性に対して、「私たちがこんなにも頑張って道をつくってきたのに、あなたたちどうして乗ってこないの?」と言うのは、違うのではないかと。この意識差がいろいろな企業を取材していて、顕著に出ているなと。
太田 すごくわかります。
神原 メディアでも特別な話ではなくて、キャリア志向が高い女性と、そこまでではない女性がいて、世代間の意識差が起こっていると。制作から別の部署に異動したいと希望すると、それはドロップアウトだ、敗北を意味する、私たちがどんなに苦労して道を切り開いたんだと、苦言を呈すのだそうです。
太田 メディア企業だと、特にそういう傾向が強いかもしれませんね。
神原 大組織において、たとえば営業の第一線、主戦場にいた女性が、総務など後方支援の部署に行ってしまうと、人のやり繰りが確かに難しいんですけど、これからは、いろいろな仕事観の人たちがいるのだということを、会社は意識すべきだと思います。
太田 実際、なんとしても年収1000万円稼ぎたい女性と、300万円でいい女性、両方いますからね。組織の理想像だけを押し付けずに、個々のキャリアの展望をリスペクトし合って組織と個人が対話する。
「会社を辞めなきゃよかった」と思わせたい
太田 前回、神原さんは早計な転職や独立に警鐘を鳴らされていましたが、本の中には、安藤美冬さんや佐渡島庸平さんのように、若くして大企業を辞め、独立されたかたもいますよね。
神原 2人とも、基本的には所属していた前の会社で活躍した人たちです。安藤さんは、社長賞。佐渡島さんは、若者ならば誰もが知っている大ヒットを生み出しているわけですから、簡単にいえばスーパーエリートなんですよ。そんなスーパーエリートが独立するのはごく自然なこと。危惧しなければならないのは、彼らに刺激されて「自分も独立できるんじゃないか」と、安易に思ってしまうことです。
太田 安藤さんの後を追っても、実力がなければノマド難民になってしまいますからね(笑)。
神原 たまに大学時代の後輩から転職相談を受けるんですよ。でもちょっと待て、君の実績はなに?と、あえて問い詰めるんです。会社を辞めて、同じ年収を1年目から稼げる自信はあるのかと。実績と自信、その2つがないかぎり、転職したって起業したってダメになっちゃうぞと。安藤さんも、佐渡島さんも、独立して楽しそうに仕事してるけど、前の会社でどれだけ成績を残したか知ってるのか。それでも腹をくくれるなら、転職も起業もいいけどって。
太田 特に起業のほうはファンタジー化していると思います。一部の切り取られた華やかな部分だけ見ても、それは現実の真逆。実際には不安定で、予測不可能性の嵐なのに。
神原 だからこそ、廣優樹さんが代表を務めているNPO法人「二枚目の名刺」の活動のように、本業の会社以外の場所で、何かのスモールスタートをするというのは、面白い試みだと思うのです。自分がプロジェクトを仕切ったらこうなるのだ、独立したらこうなるのだというような疑似体験ですよ。
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