映画化で浮かれた医師が挫折から立ち直れた訳 葉田甲太氏「僕を突き動かした単純なこと」
いろんな本や論文も読み、「赤ちゃんの命を救う方法」について考え、プランを立てた。長崎大学の先生から講演の機会をいただき、プロの方々の前でプランを発表したが、批判と言ってもいい質問を浴びせられた。自分ではこのプランで大丈夫だと思っていたが、全然ダメだった。格好悪いけれど、それが現実の自分だった。
優秀な人やすごい人は世の中にたくさんいるのに、なぜ自分はこんなにも恥ずかしい思いをして、行動しているのだろう。
長崎での発表を機に、自分の無力さや限界を嫌というほど知った。
「国際協力をやめよう」
だけど、何か最後にしようと思い、自腹でトゥクトゥクを購入して、お母さんのいる村にプレゼントした。
そのお披露目会のために訪れたカンボジアの僻地で、みんなが喜んでくれた。
イベントが終わり、お母さんが僕の元に駆け寄り、笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
トゥクトゥクは助けの1つにしかならないが、少しでも自分のせいで赤ちゃんを亡くしたと思っているお母さんの「後悔」や「涙」を減らして、「笑顔」を増やしてあげたかった。
お墓の前で泣いていたお母さんを笑顔にできたこと、「ありがとう」と言われたことが、ささいなことかもしれないが、僕を突き動かす原動力だった。
「相手と自分のため」なら行動できる
長崎で発表した時は、まったくダメなプランだったが、お母さんの笑顔という、そんな目の前の単純なことが僕を突き動かし、最終的にはカンボジアへ保健センターを建てることができた。
誰にでも仕事や人生でつらいことがあるけれど、きっと自分を突き動かすのは、目の前にある単純なことかもしれない。
自分のためだけや相手のためだけでは行動できなくても、「相手と自分のため」であれば行動し、それを続けることができる。今の僕の日常を円グラフにすれば、臨床医とNPO活動、家族との時間の3つしかない。みんながうらやむキャリアではないかもしれないけれど、僕はとても満足している。
川原先生はこうも言っていた。
「人と比べることはやめたんよ」
僕もきっとそうなのかもしれない。
人と比べるのではなく、自分が本当にやりたいことは何かを探り、それに向かって行動することが自分や周りの人のためになるのではないだろうか。
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