第6回(最終回) 自転車とドイツ社会の濃すぎる関係

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自転車とドイツ社会

目を転じて、自転車とドイツ社会を見ると、なかなか濃厚な関係が見えてくる。

自転車は19世紀に誕生した乗り物だが、世紀末には中流階級のスポーツとして普及し、自転車レースに人々は熱狂していた。なるほどと思えるのが製造会社の歴史だ。たとえばオートバイのザックス社の創業者エルンスト・ザックスは現存する自転車クラブのアマチュアレーサーで、自転車の部品も製造していた。自動車のオペルは1862年の創業当時はミシンを作っていたが、1886年から自転車を生産。1920年代には最大の自転車メーカーに成長していた。これを鑑みると自転車などの陸上滑走スポーツからモータースポーツへつながる流れのひとつとして見えてくる。

一方、前回の拙稿でも触れたが、19世紀の半ば以降にスポーツ・クラブがたくさんできる。この「クラブ」というのはドイツ語でフェラインというが、今の日本でいえばNPOと理解すると分かりやすい。スポーツ・クラブの中にはザックスが所属していたような自転車に関するものもあった。

また19世紀は工業化と都市化が進み、工場労働者が増えた。それに伴い、社会保障や公衆衛生といった分野が都市の課題として浮かび上がったのもこの世紀であった。そのため今日でいうところの生活の質を追求する社会的な動きが随所で見られるのだが、1896年に「労働者・自転車使用者の連帯」というNPO(フェライン)が設立されている。労働者階級の移動性と社会生活への参画を高め、スポーツも楽しめるようにといった目的があった。
 この世紀の社会問題解決のために自転車を活用しようという動きがあったと考えることができるだろう。

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