ブルーボトル「1杯300円インスタント」出した訳 ネスレ傘下入り2年で初の「協業」

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実際、同社を囲む環境も変わりつつある。上陸と前後して日本でもサードウェーブコーヒーブームが湧き起こり、豆や焙煎、入れ方などにこだわったカフェが次々とできた。今年2月には、スターバックスが日本初となる焙煎工場などと一体化した大型店舗「スターバックス リザーブ ロースタリー東京」を中目黒にオープンするなど、大手の“進化”も止まらない。

こうした中、ブルーボトルが目指すのはそのちょっと先にあるコミュニティーに根付いた居場所。つまり同社が憧れている街の喫茶店のような場所である。

自ら歩いて文化や地域経済を肌で感じる

出店場所にもこだわりは大きく、進出当初から候補地にはすべてミーハンCEOが足を運んでいる。日本をはじめ、韓国なども積極的に訪れており、「僕がインスタをアップすると、そこにブルーボトルが進出するのでは、と臆測を持たれるほど」だという。

すべての候補地に足を運び、「フィーリングが合うところに決める」と話すミーハンCEO(撮影:今祥雄)

立地についてミーハンCEOは、「日本でスペシャルティコーヒーに関心を持つ顧客の属性はどんなかを見極め、そういう人がいそうなところを選んでいる」と話す。「視察の際には、近所を歩き、買い物をすると同時にどんな文化があるのかを観察し、これから変わる可能性がある、あるいは、変わることができる街を探す。すでに街の経済が活発でポテンシャルが高い顧客がいるにもかかわらず、進出していない場所も候補の1つだ」。

野心的な新商品を手がけながら、コーヒー文化やコミュニティー育成というマイペースな目標を掲げられるのも、年間売上高10兆円規模の調巨人、ネスレの傘下に入ったことが大きいだろう。同社はそれまで数百人に上る投資家がいたが、これらの株式をネスレが買い取ったことで「業績の説明や資金調達に回る必要がなくなり、自分の時間を店舗や商品開発に振り向けられるようになった」(ミーハンCEO)。

清澄白河店では、人気パティシェと開発したデザートメニューも(写真:ブルーボトル提供)

ネスレとの協業で家中事業を強化しつつ、独自の出店戦略でファンを増やしていく――。ミーハンCEOによると、現在のところ日本における店舗はいずれも順調で、今後も関西含め店舗を増やしていく考えだ。

とはいえ、消費者の嗜好は変わりやすいうえ、今後もコーヒーのみならず、さまざまな形態のカフェが登場することが見込まれる。コミュニティー育成という事業拡大より大きな目標を達成するには、商品や出店戦略などを微調整しながら地域にファンを増やしていく施策を続けることが欠かせない。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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