今すぐ読んでもらう必要のない年金改革の話

言ってどうなるものでもない世界はある

一方、それに要する国庫負担額は、適用拡大によって国民健康保険の人たちも被用者保険に移ることになるために、国民健康保険に入っている国庫負担の減少額が相殺する。

このあたりの説明は、財務省の資料も優れものなので、厚労省と財務省両方の資料を紹介しておく。

         適用拡大が基礎年金水準に与える効果
・適用拡大により短時間労働者等で第1号被保険者だった者が第2号被保険者となることで、国民年金財政が改善し、その結果、将来の基礎年金の所得代替率が改善(マクロ経済スライドによる調整が早期に終了)する
          (厚労省社会保障審議会年金部会2018年9月14日配付資料)
         被用者保険の適用拡大の効果
・被用者保険の適用拡大を行うことにより、短時間労働者が厚生年金加入者となることに伴い、国民年金の1人当たり積立金は増加
・この結果、将来的に、基礎年金の給付水準は改善。また、定額給付である基礎年金水準が高くなることで、所得再分配機能の維持にも寄与
               (財務省財政等審議会2019年10月9日配付資料)

もっとも、厚生年金の適用に免除規定があるというのは、「同一労働同一賃金」を掲げる政府が、同じ労働でしたら社会保険料の負担をしないですむほうがお得ですよと非正規労働を推奨しているようなものである。

したがって、適用拡大を行い、いわゆる「同一労働同一保険」を実行すれば保険料の半分を負担する企業側の支出が増える。ゆえに、新たに適用される企業の経営者たちは、懸命にレントシーキング(企業が自らに都合がよくなるように規制や制度を変更させることで利益を得ようとする活動)を展開する。

社会保険料すら払えないのは「ブラック企業」

しかしながら、社会保険料も負担することができない程度の付加価値しか生み出すことができない企業の経営者を守ってあげる余裕が、はたして今後の日本にあるのか。次も、第10回年金部会(2019年9月27日)で話したことである。

マクロ的にいろいろ考えていくと適用拡大が成長戦略になるというような話は、最低賃金のほうでデービッド・アトキンソンさんなどが展開されている論とほとんど同じロジックになっていきますので、経過措置があればしっかりと対応できていくのではないかと思っております。
きょうの会議でどうなるという話ではないのですけれども、私は(適用拡大に)反対される方々に2~3カ月後にもう一回聞きたい質問があります。被用者でありながら厚生年金に入ることができない人たちは、どうしても年金の防貧機能が弱くなるので、将来的には生活保護の受給者になる可能性が高まってくる。
その将来的な生活保護の受給者の財源は誰が賄うのかというと、将来の人たちの税金で賄われることになるのですけれども、それは将来の人たちの税金で、生産性が低いから今は適用拡大することはできませんという経営者たちの企業を守る正当性は一体どこにあるのかがよくわからない。
数カ月後にはぜひ組織の中で、適用拡大に反対する正当性を議論し尽くして、そこで真っ正面から議論することができればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

労働者の生活を守るための社会保険料を負担することもできないブラック企業とも呼べる企業については、私は今年3月に、自民党の「人生100年時代戦略本部」でも話をしている。講演のテーマは「人生100年時代の働き方のためのセーフティネット BIよりもSIだろ――勤労者皆SIに向けて」であった。

ここで、BI=Basic Income、SI=Social Insurance(社会保険)のことである。その日のメインの話題は、適用拡大はミクロには個々の企業は反対し、マクロ経済の観点からは望ましい「合成の誤謬」の局面にあり、この問題を解くためには、自民党の議員が唱える勤労者皆SIは本当の意味での成長戦略として実行することが必須であると説くことであった。

次ページ「ブラック企業」を淘汰したスウェーデンの先例
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