今すぐ読んでもらう必要のない年金改革の話

言ってどうなるものでもない世界はある

北欧の同一労働同一賃金を忠実に守ると、同じように自動車を組み立てているトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱の労働者は、同じ賃金を受け取ることになります。しかし各社は、当然、市場での競争力が違うわけですから、企業の付加価値率がぜんぜん違っているはずです。
そうした企業が揃って同じ賃金を払うとすると、立ちゆかない企業が当然でてきます。これについては、いや、まさに、それこそが狙いなんですよというのが、1950年代にスウェーデンで採られた政策――レーン=メイドナー・モデルに基づく政策――だったわけです。
理論的には、次のような話です。

同じ職種であれば、企業が違っても同じ賃金を支払う「連帯賃金政策」を展開すると、図の中の連帯賃金線以下の左側の企業a、企業bは、今のままではやっていけなくなります。そうなると、廃業するか合理化を図るかしか選択肢はありません。
スウェーデンでは、一国の経済政策として、低い付加価値率しか生み出せない企業を国の中に抱えている余裕はこの小国ではないと考えて、そうした企業a、企業bがもし合理化できないのであれば廃業してもらい、そこで使われている資本や労働力を、もっと生産的なところに回してくれないだろうかと考えました。その代わり、「積極的労働市場政策」というのを展開して、廃業した企業の労働者が生産性の高い企業に移動しやすい仕組みを準備するわけです。
こうした考え方は、スウェーデンのLO(全国労働組合連合)で働いていた2人の経済学者、イェスタ・レーンとルドルフ・メイドナーが、1951年のLO全国大会に提出した『労働組合運動と完全雇用』(レーン、メイドナー編集)で唱えられていたので、レーン=メイドナー・モデルと呼ばれてきました。
1950年代に経済発展への離陸期にいた小国のスウェーデン、そして今や労働力人口が減少過程に入り労働力希少社会の趣を強めてきた日本、両国では付加価値率、つまり付加価値生産性の低い経済セクターや企業を抱えておく余裕がなくなっているという共通点がある。
付加価値率が低く、労働者の社会保険料をも支払うことのできない企業は、しっかりと合理化を図って、より付加価値率の高い事業体に転換してもらうか、そこに投入されている資本と労働を、もっと生産的な分野に解放してもらう。
そうした、賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大というような成長戦略をとらないことには、今後の日本人の生活水準を維持することはできない状況の中にある。そういうことなのだろうと思います。
次の図は、そうしたことを示しています。

日本の労働力の質は高いと国際的にも評価されています。その労働力を最も効率的に利用していることを想定した関数が、Y=f(L)の生産関数です。しかし、日本の労働力が効率的に利用されておらず、経営者の努力により労働生産性を上げることのできる余地があるのならば、その余地の活用を目指す。1950年代のレーン=メイドナー・モデル、そして最近の最低賃金論議や、適用拡大論議というのは、そういうことを意味しているのだと思います。
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