今すぐ読んでもらう必要のない年金改革の話 言ってどうなるものでもない世界はある
こうした事情もあり、次回の年金改革では規模要件の撤廃が目指されていた。ところが、あれよあれよと、世の中に、全世代型社会保障検討会議というのが作られ、そこを取り仕切る経済産業省の官僚たちが、中小企業は最低賃金の引き上げで大変だろうとか、軽減税率導入への対応で手が回らないだろうとかを理由に挙げて、適用拡大は今の500人超から200人超だ、大目に見て100人超だと言い始めた。
そしていつのまにか、規模要件の撤廃のために何年間も汗をかいて準備を進めてきた人たちは蚊帳の外に置かれてしまい、今や、せめて50人超にしてくれないかと官邸官僚たちに嘆願する状況になっている。
いや、まさに力関係が如実に表れているわけで――こうした政策形成過程における力の構造は、今のご時世では誰にも変えることはできない。では、100人超、50人超となれば何人規模の適用拡大となるのか。次は、私の第10回社会保障審議会年金部会(2019年9月27日)での発言である。
規模要件を残しておく決定は、将来に必ず禍根を残す。来年行われる中途半端な改革のせいで、将来、生活保護を利用せざるをえない人たちが大量に出てくることになる。そして、今の若い人が年をとったとき、いったいなぜこんなことになったのか、誰のせいなのかと考えることになる。この文章は、そうした未来のために書いている。
適用拡大は絶対正義
年金部会の場をはじめ、私は「適用拡大は絶対正義」と言い続けてきた。そんなこと、少し考えればわかる話である。
第1号被保険者のおよそ4割が被用者なのだが、彼らはいわば労働力しか生産手段をもっていないプロレタリアートである。彼らが老後を迎えたときに、貧困に陥ることを防ぐ「防貧機能」が弱い基礎年金しかなかったら生活は相当に厳しく、生活保護の受給者になる可能性は高い。
だから、第1号被保険者の中にいる4割の被用者に基礎年金の上に乗る2階部分の報酬比例年金を準備しておくことはわれわれ世代の責務である。しかも、厚生年金は、保険料は賃金比例で支払い、給付は基礎年金と報酬比例の2階建てで設計されているために、次の図が示すように、厚生年金の中では高所得者から低所得者への再分配が行われる助け合いの制度となっている。ゆえに、所得代替率で見れば低所得者ほど厚生年金に加入することは有利となる。
さらに、第1号被保険者が第2号に移ると、第1号被保険者1人当たりの国民年金積立金が増える。そうなると、年金額を算定するうえでベースとなる基礎年金の保険料部分の給付水準が上がる。とともに、同額の国庫負担分が投入される仕組みゆえに、基礎年金の給付水準は相当に上がり、その恩恵は、基礎年金の受給者全員が受ける。
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