中国の新車市場「急減速」の中で分かれる明暗 市場の9割を占めるセダンやSUVの苦戦続く

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プラットフォーム共通化戦略によるコスト削減に成功した日系メーカーは、前出のライバル車の低迷が図らずも好機となり、市場シェアの拡大を果たした。

トヨタは前年同期比8.4%増の118万台、初めて日系車首位の座に着いており、ホンダは同16.4%増の112万台でトヨタに迫る勢いを見せている。2社の好調を支えているのは、新型セダンだ。トヨタの「カローラ」と「レビン」、ホンダ「シビック」と「アコード」がともに月間販売2万台超の実績を見せた。とくに日本から全量を輸入するトヨタの高級車ブランド、レクサスの販売台数は1~9月、前年同期比23%増となった。

前年並みの販売水準を維持している日産は「シルフィ」と「エクストレイル」でそれぞれ日系セダン、SUV(多目的スポーツ車)販売台数のトップとなっている。他方、昨年からSUV市場の減速が、販売車種が少ないマツダと三菱自の販売に大きく影響を与え、両社の中国事業に暗雲が垂れ込めている。

日系車のなかでも明暗が分かれるものの、日系車の中国乗用車市場シェアは、1~9月に21.7%をみせ、直近10年間で最も高い実績を示した。足元の日系車の好調と韓国系車の低迷は中国における消費高度化の一面を映し出していると言えるだろう。

消費者嗜好の変化に対応できるかがカギ

中国新車市場の低迷が今後も続けば消費への悪影響も広がる懸念がある。中国政府は今年8月、「流通の発展加速と商業消費」の促進策を発表し、自動車の消費喚起を図るため、地方政府に対して自動車購入制限の緩和を呼びかけている。広東省のナンバープレート発給制限の緩和に続き、貴州省は9月にナンバープレートの発給制度を撤廃した。

中国では、地域経済発展のアンバランスや貧富格差の拡大など、新車販売を抑制する要因は多い。短期的な視点で見ると、中国自動車市場の趨勢は内外経済環境の変化の影響を受けやすい。しがしながら、中長期的には市場のポテンシャルは依然として高く、これからも上昇トレンドを継続すると予測される。

また、中国におけるクルマ消費の高度化に伴い、消費者の嗜好が変化し、自動車市場の細分化も見られている。熾烈な市場競争が続く中、メーカー各社は、技術力とブランド力の向上による独自性や差別化を追求するメーカーは増加している。

拙著『2030中国自動車強国への戦略』でも中国自動車業界の変化と日本企業の勝ち残り策をテーマにしたが、今後日系自動車メーカーが製品戦略を検討する一方、中国市場の特性に合わせた地域戦略やロビー活動に取り組み、地場の異業種企業との提携等を視野に入れる必要がある。日系メーカーにとっては、今後マーケティング戦略の構築やスター車種の投入によるターゲットの明確化を図り、着実に製品競争力を高めていく必要があるだろう。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、日本・中国自動車業界の知見を活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。中央大学兼任教員、専修大学客員研究員を歴任。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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