「中小企業を守る」目先の利益が日本を滅ぼす 「災害、人口減少、社会保障」大局的な政策を

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「日本人は苦しいときにこそ底力を発揮してきた」。たしかにそうかもしれません。しかし厳しい言い方ですが、そんなことで経済がよくなるなら、日本はとっくにデフレから脱却しています。経済とはサイエンスであって、「頑張り」や「思い」で乗り切れるものではないのです。

中小企業経営者の目先の利益を優先して日本全体が貧しくなるか。それとも「数字」による合理的判断に基づき、賃金を上げて日本経済をよみがえらせるか。

人口減少、そして巨大地震、この2つの大きな危機に対して、具体的にどうやって立ち向かっていくことができるのか。最低賃金の引き上げに反対している方たちは、ぜひとも説明をしていただきたいと思います。

今、日本は歴史的な分岐点に直面しています。

国際競争力が5位なのに生産性は28位。先進国の中で最も優秀な労働者なのに最も賃金が低い。このようなおかしな状況をつくった「1964年体制」を続けていくのか、改めるのかという分岐点でもあります。

後世の人々に誇れるような決断をするためにも、精神論や感情論をぶつけ合うのではなく、経済合理性に基づいた議論を期待します。

いただいた「ご指摘」にお答えします

「イギリスで最低賃金引き上げが成功したというデータは、各国の最新の研究で否定されている」と主張される方がいます。私も頑張ってその論文を探したのですが見つからなかったので、前回の記事(最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る)で「ご存じの方は教えてほしい」と書きました。

それに対していくつかのコメントがありましたので、ここで補足しておきたいと思います。

例えば、イギリス政府が大学に依頼した最低賃金の検証結果を信用できないと主張する方がいます。イギリスの最低賃金に関して、2008年までのデータ検証も「否定されている」と訴えています。

しかし、それは関係ありません。私が用いている最新の分析は2019年版のものです。おそらく、この最新の分析の存在を知らないのか、286ページにも及ぶ低賃金委員会の報告書をお読みになったことがないのでしょう。

また、最低賃金引き上げが雇用に悪影響を及ぼすことを示す「最新エビデンス」として、イギリスのエセックス大学の教授の論文(Mike Brewer, May 2019, "What do we really know about the employment effects of the UK’s national minimum wage?" )を引っ張り出してきた方もいらっしゃいます。

こちらも原文で読むと、「最低賃金の引き上げは失業率の向上につながっていない」という事実を否定してはいません。低賃金委員会が使っている検証方法が不十分で、高度化したほうがいいと提言しているだけです。統計の技術的な議論が展開されています。

最低賃金の引き上げが本当に失業率向上につながらないことを証明するためには、今の検証方法では不十分と書かれています。論文としては面白く、正しいと思います。しかし、それは私の論点を否定するものではありません。

それどころか、今現在の失業率向上につながっていないという「事実」は、論文執筆者自身も認めているのです。にもかかわらず、そこにはまったく言及しないというのは、英語の読解力に深刻な問題があるか、あるいは全文を読んでいないとしか思えません。

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