「中小企業を守る」目先の利益が日本を滅ぼす 「災害、人口減少、社会保障」大局的な政策を

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さらに付け加えるなら、目先の利益ではなく長い目で見れば、企業や経営者にも害が及びます。

日本という国や日本人が貧しくなっていくのですから、日本で経済活動をする企業もさらに貧しくなっていくのは当然です。今の政策では、先に貧乏になるのは社員かもしれませんが、社長もゆくゆくは必ず貧乏になります。つまり、人口減少社会の中で、給料を継続的に上げないということは、この国で誰も得をしない「愚策」なのです。

しかし、残念ながら、日本にはこのような大局的な視点を欠いている方たちが財界やアカデミックの世界にも多くいらっしゃいます。

給料を上げることなく、人口減少・高齢化の問題にどう対応するべきか「代案」を示していただきたいと思います。しかも、その代案は、2060年までの人口減少に対応できるというエビデンスを、数字をもって示すべきです。「イノベーション」「頑張りましょう」「日本には日本の価値観がある」などという根性論だけでは、とても人口減少に対応できません。

いつか必ず大地震に見舞われる国に必要なこと

それだけではなく、日本特有の事情があることも忘れてはいけません。それは「自然災害」です。

ご存じのように、日本は首都直下型地震と南海トラフ地震という2つの危機が迫っています。東日本大震災の震源地である三陸沖で、定期的に巨大地震が繰り返しているのと同様に、この2つの巨大地震も遠くない将来、確実に起きることがわかっています。しかも、2つが連続して起きる可能性が高いと言われています。

震災で甚大な人的被害があることは当然ですが、首都、東海、南海という日本経済の中心部が深刻なダメージを受けることで、経済も急速に悪化することは容易に想像できましょう。

公益社団法人「土木学会」が阪神・淡路大震災で神戸市が受けた経済被害を参考にして、20年間でどれほどの「間接被害」になるのかを算出していますが、そこには驚きの数字が出ています(2018年6月「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」より)。

なんと、首都直下型地震で778兆円、南海トラフで1410兆円というのです。日本の名目GDPは550兆円ですので、近い将来起きるこの2つの巨大地震が、人命の面はもちろん、経済の側面でも「国難レベルの災害」であることは間違いありません。

日本は1990年までは極めて健全な財政を守ってきた国です。しかし、1964年から続く中小企業保護政策によって、経済合理性を無視した感覚的な経営が当たり前となり、バブルの怠慢経営、そして失われた20年を経て、ついに財政が世界最悪となってしまいました。

生産性が低く、財政が貧弱。その状態で自然災害が襲ってきた場合、日本は海外調達に頼るしかありません。日本経済の規模と自然災害の規模からすると、その金額を出せる国は多くはありません。出せる国も、無条件で安く出してくれるとは思えません。すでに「日本が売られる」と騒がれていますが、現状程度ですむとは、とても考えにくいのです。

巨大地震のリスクがなく、人口が増加しているような国ならば、「MMTによれば財政赤字は問題ではない」「国債が自国通貨建てだから破綻しない」などという理屈はありうるかもしれません。

しかし、巨大地震のリスクがそこまで迫っているうえに、人口減少と高齢化もすさまじい勢いで進行している今の日本では、「現実逃避」をしているとしか思えません。

生産性向上がすべてではない。中小企業が多いことを日本の強みにするべき。ネットにあふれる「反論」の多くは、残念ながら精神論・感情論の域を脱しておりません。『下町ロケット』はたいへん優れたフィクションです。しかしフィクションはフィクションでしかありません。どんなに美しくても、現実を無視した議論は極めて危険です。

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