「中小企業を守る」目先の利益が日本を滅ぼす 「災害、人口減少、社会保障」大局的な政策を

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日本の人口が減少していく以上、賃金が上がらないと個人消費総額が激減するというのは、中学生でもわかる理屈です。では、この減少を食い止めるにはどうすればいいかというと、生産性を高めて一人ひとりの所得水準を増やすことです。不思議なことに、人口減少は始まっているものの日本ほどではない欧州のほうが、なぜかこの生産性向上に対する理解が深いのです。

ここで議論が分かれます。

企業の生産性が高くなる環境作りが大事だという考え方があります。生産性向上のための技術導入や研究開発、社員研修に補助金を出したり、成功事例を示したりすることで、経営者は生産性を向上させるという考え方です。輸出促進政策などもこの種の政策の1つです。

産業振興策は、これまで効果が極めて限定的だった

しかし、このような産業振興策は、今までやってこなかったわけではありません。事実として、こういった政策が実行されているにもかかわらず、中小企業の生産性は高くなっておらず、従業員の賃金も先進国最低レベルです。

政府は1990年以降、こういった性善説的な考え方に基づき、ゼロ金利政策、企業への補助金、保護政策、景気を刺激するための公共工事などをさんざんやってきました。その結果、国の財政の健全性が世界最悪の状態になってしまいました。

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にもかかわらず、景気がよくなっていないのは間違いない事実です。つまり、中小企業経営者の自主性に任せているだけでは何も変わらないということは、歴史が証明しているのです。

私が「生産性が向上しない原因」を分析した結果、2つのことがわかりました。1つは、非効率な産業構造が低生産性の根因なので、いくら生産性向上を訴えてもそもそも構造的に無理があるということ。もう1つは、経営者には生産性向上をするインセンティブが働いていないことです。

たとえるなら、運動が嫌いな体重60キロの人に、「こうすれば100キロのベンチプレスができるよ」と言っても、できるはずもないのと同じです。技術の問題だけではないのです。その技術を生かすための体にならないと、その技術を生かせません。別のたとえをするなら、文字を読めない人にスピード読書法を教えても無駄なのと一緒です。

では、生産性向上のためにどうすればいいかというと、『この法律が日本を「生産性が低すぎる国」にした』でも申し上げたとおり、「小さな企業が異常なほど多い」という「1964年体制」から脱却して、小さな企業の規模を大きくしていくことです。

企業の規模が大きくなればなるほど生産性が上がる。企業の規模が小さくなればなるほど生産性が下がる。これは経済学の大原則です。

たしかに、中小企業の中にも大企業より生産性が高いケースはありますが、それらは給与水準や輸出比率が高い、統計上珍しいケースです。

規模の大きな企業が多いアメリカなどの国は生産性が高く、小さな企業の割合が高い日本や韓国の生産性が相対的に低いことも、この大原則を証明しています。

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