ベトナム産コーヒーをブランドに変える仕掛人

東京の有名店や大手通販が続々と取引を拡大

そんなベトナム産スペシャルティコーヒーを生み出すまでの道のりは平坦ではなかった。トイ・グエンさんは貧しい農家に生まれ、つねに空腹だった。さまざまな仕事をして資金を蓄え、結婚後、同国中部のラムドン省バオロクにある川の小さな無人島と牛を買い、単身で野菜栽培をする道からスタート。2007年には島が洪水に見舞われ、かろうじて牛を救出したというつらい経験もある。

その後、彼は妻を呼び、冠水した土地でも短期で収穫可能なトウモロコシの栽培を計画する。トウモロコシの価格は安いため、ゆでて売ることを思いついた。肥沃な土壌と牛糞の堆肥で育てたトウモロコシは甘くておいしいと好評で、最初の行商ではわずか30分で売り切れた。トウモロコシ収穫後はカボチャを売るなど、収入は徐々に伸びていった。

好機は続く。作物の栽培をしていた小島に水力発電所建設の計画が持ち上がり、高額の賠償金を得て、それを元手に2011年3月に7ヘクタールのコーヒー農園を購入した。

コーヒー農園を持つことはベトナム人農家の夢だ。トイ・グエンさんにとっても長年の目標だった。当初は伝統的な方法で栽培をしたが、2012年に良質のコーヒー豆を作るプロジェクトに参加する。

栽培から収穫、精製方法まで工夫を重ねたが、30万ドン(1400円前後)ほどの収入増にしかならなかった。それでも、「きちんと管理して生産過程に応用すれば本物のスペシャルティコーヒーを作ることができる」との意志を強く持って、より質の高いコーヒー豆を作ることを決意する。

ベトナムの夢、悲願のコーヒー誕生へ挑戦が続く

スマートフォンが珍しかった当時、トイ・グエンさんはコーヒー全般のあらゆることをインターネットカフェに行って調べ上げた。飲み物1杯で1日中、栽培や精製、カッピング(テイスティング)方法まで探索した。そんな独学を続けて1年、彼は「将来のベトナムコーヒーという夢を実現する」との思いを込めて、農園を「Future Coffee Farm」と名付けた。

資金は借金、そして森の竹を使って自前で棚やビニールハウスを作り、休みなしで3カ月の時が過ぎた。しかし、収穫期にパルパー(ミキサー)を使うと、傷ついた豆の割合が高かった。約1カ月間、機械の調整やテストを繰り返し、豆に傷がつく割合を1%に抑えることに成功。待ち望んだシルバースキンが残るコーヒーが仕上がった。

収穫期も終わりに近づく頃、初めてのスペシャルティコーヒーを生産。初のコーヒーは、フルウォッシュド(発酵槽に浸して発酵後に粘液質を除去)とハニー(粘液質を残して乾燥)製法の2種類で、当初は1トンずつの生産だった。

困難を極めた収穫期の後、彼は豆の紹介にホーチミンの大手カフェを回ったが、濃くて苦みがあり、黒くて粘り気があるカフェの通常のコーヒーに対して、すっきりとした酸味で軽い苦みの彼のコーヒーは受け入れられなかった。

彼らのコーヒーは大豆やトウモロコシ、酒、バター、香料を加えて作っていると知る。彼は「安全で質のよい健康的な製品があれば需要はあるはずだ」と思い、友人や機械を購入した業者に新たな借金をし、再び挑戦が始まった。

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