「大学の貧困」が「国難」につながる深い理由 「科学立国危機」に文科省が行うべき改革とは

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大学運営の裁量をあげるから自分で少しは儲けてね、というわけです。しかし、詳しくは述べませんが、国は競争的研究・教育資金を使って、大学運営に間接的に介入し、コントロールを続けてきました。

しかし、研究と教育に社会的使命を担ってきた国立大学に、突然、儲けましょうと言ったって無理な話です。瞬く間に、困窮することになります。

そして、〈退職教員の補充ができず若手研究者が雇用できない〉〈研究費を補填するために外部の競争的資金を獲得しようとして研究者が事務作業に忙殺され研究する時間がなくなる〉〈教員が減って1人当たりの学生指導の負担が増えたりしたため、研究する時間がなくなってしまう〉という状況に陥りました。まさに、貧乏暇なし、です。

私立大学でも似たようなことが起こっています。国が私立大学を補助する経常費補助金の総額は長期的に増額されていませんが、私立大学の数は増え続けています。1980年には1校平均約8億円だった補助金は、私立大学が過去最高の606校となった2013年には約5億円に減りました。

一方、数が増えた私立大学間では、学生獲得競争が熾烈となり、多くの大学では教員に学生サービスを強く求めるようになりました。結果、私立大学でも、忙しくて研究している暇がないという状況が生まれています。

文科省はまるでひとごと

国立大学の法人化を契機として大学教員の研究費と研究時間がなくなったことは、政府が認めていることです。2017年版の『科学技術白書』にはっきりと書かれています。冒頭の特集第3章第1節で「我が国の基礎科学力の揺らぎ――三つの危機」と題し、その1つに「研究費・研究時間の劣化」を指摘しています。

そして、その原因として、運営費交付金などの基盤的経費の削減(のために、研究費が少なくなったこと)と、競争的資金獲得の熾烈化(のために、研究時間が少なくなったこと)を上げています。運営費交付金を削減したのも、競争的資金を拡大したのも当の政府・文部科学省の政策であるにもかかわらず、まるでひとごとのようです。あきれます。

具体的に見ていきます。まず、研究費です。国公立大学の研究開発費は1990年代中葉からほとんど増加していません。2000年と基点とした主要各国の大学部門の研究開発費の増減を比較すると、中国の14倍、韓国の4倍、アメリカの2.3倍に対し、日本は僅かに1.1倍です。

教員(研究者)1人当たりの研究費も、長期間、まったく増えていません。1980年代前半は1000万円前後で、直近の2015年は1256万円です。増加率25%で、そこそこ増えているように見えますが、違います。今と35年前では貨幣価値に違いがあります。

2015年を基準年(100)とした1981年の物価指数は78.7です(政府統計局)。現在の貨幣価値に換算すると、1980年代前半の大学研究者1人当たり研究費は1270万円です。1人当たりの研究費は35年間、まったく増えていないのです。

それを多くの研究者が実感しています。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の2017年のアンケート調査では、83%の研究者が研究費が足りないと回答しています。

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