ホンダに学ぶ「すり合わせ力」の活かし方
クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(2)

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しかし、社外の技術を取り込む「オープン・イノベーション」を活用すれば、開発期間の短縮も、開発にかかる費用の削減も可能となり、実用化への道のりはぐっと近くなる。

バイクから自動車、ロボットからジェット飛行機まで、独自で開発した技術にこだわる自前主義というイメージの強いホンダが、島津製作所やATRと組んだのも、また、自動車業界の技術公募のそうした動きも、まさにオープン・イノベーションの一環なのだ。

技術をさらに進化させる「すり合わせ力」とは?

単に「センシング」や「データ解析」を組み合わせるだけでいいのなら、技術的な蓄積がさほどない企業にもチャンスがあるように思える。確かに、娯楽としてロボットにお願いするだけなら、10回に1回は間違った反応をされてもご愛敬だ。

しかし、ドライバーの安全と命に関わるクルマへの応用となると、話は別。間違いは決して許されない。体の微弱な電気信号や振動を読み取るにはまず、クルマの振動や飛び交う電波や磁場の影響を取り除かなければならないし、モーターや電波をあつかう機器と連携させることで、クルマのボディーの形状や材質の見直しも必要になるかもしれない。

また、車内と他の環境では、同じ体調や精神状況でも、体が発する信号に変化が生まれる可能性がある。クルマという特異な環境下で、命に関わるシステムを完璧に機能させるには、自動車会社がこれまで培ってきたシステム、ユーザーインタフェース、安全評価技術、品質管理技術などの最新技術をすべて連携させ、必要な情報を正確に取得することが重要だ。さらに、適切なタイミングでそれを運転操作につなげるには、かなり高度な「すり合わせ力」も求められる。

新興国の自動車メーカーが、命に関わる信頼性が求められるこうした領域で、多様な技術をすり合わせるスキルを身につけるには、まだまだ時間が必要だ。つまり、これまで多様な技術を培ってきた「すり合わせ力」の高い日本企業だからこそ、技術をより一層進化させてリードし続けることが期待できるというわけだ。

「利用者の期待にもっと応える必要がある」×「命に関わる信頼性が求められる」×「『すり合わせ力』が有効」――これら3つのキーワードに当てはまるのは、クルマの安全機能の開発だけではない。

例えば、生死に関わる脳や心臓手術や、がんの摘出手術などに求められる医療デバイス、送電系統につながっていない地域のライフラインを支えるスマートハウス、高温・高圧といった過酷な条件が求められる生産設備、そして宇宙開発などにも、これらの高度な技術と『すり合わせ力』は欠かせない要素だ。だからこそ、日本企業の強みを活かせる領域なのだと見ている。

なお、ある程度現状よりも良い機能を提供すれば評価され、まだまだ伸びしろの大きい製品やシステムの開発には、長期間での研究が求められる。しっかり腰を据えて取り組む必要があるため、長期雇用が前提の日本企業の強みを活かしやすい点も付け加えておきたい。

しかし、「命に関わる領域」でないと、日本企業は技術で勝ち続けられないのだろうか? 最終回は、命に関わらなくても技術で勝ち続ける、日本企業ならではの「逆転の発想」について紹介したい。

諏訪 暁彦 ナインシグマ・ジャパン社長

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すわ あきひこ

すわ あきひこ 株式会社ナインシグマ・ジャパン 代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学 材料工学部修了。 マッキンゼー、日本総合研究所を経て、2006年に世界中から優れた技術提案やベンチャー情報を集め紹介する、技術仲介会社「ナインシグマ・ジャパン」を設立し、代表取締役社長に就任。これまで100社以上の国内企業において500件以上の技術マッチングのプロジェクトを実施。技術者交流サイト「テクロス」(tecross.jp)、優秀な大学生に仕事を依頼できる「ジョブユニ」(jobuni.jp)を運営。楽しみながら技術交流やモノづくりの魅力を伝える「Growクレイ」「テクロス~未来を創ろう!~」を開発。「研究開発TOPとの対談」を連載中。

 

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