ホンダに学ぶ「すり合わせ力」の活かし方
クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件(2)
これらの技術に共通しているのは、どれも開発に時間のかかる「材料」が必要ないという点。それどころか、前回のコラムで述べたような、「汎用性があり、すぐにキャッチアップされやすい、液晶テレビなどのAV家電」と似たテーマのようにも見える。
「材料が製品の主要なパフォーマンスの鍵を握る」ということがない限り、日本企業が技術で他との差別化を図るのは、やはり難しいのだろうか。いや、決してそんなことはない。エレクトロニクス業界が新興国に追いつかれ、苦戦した姿を横目で見てきた日本の自動車メーカー各社が、同じ轍を踏むとは考えにくいので、当然、キャッチアップされないと踏んで開発を進めているに違いない。
では、その勝算があると判断した根拠とは何だろう? キャッチアップされず、技術で勝ち続けられる条件とその理由を見ていきたい。
未来を実現させる鍵は「オープン・イノベーション」
上記の、社外技術を募るどのテーマも、誤作動が人の命に直接かかわるという意味では、前回取り上げたプリクラッシュセーフティシステム(PCS)と同じだ。しかし、大きく異なるのは、利用者の要求や期待に対する、「到達度合い」だろう。
あくまでPCSは、死亡事故の回避が目的だ。実際に死亡事故の約6割を占める走路逸脱は、時速80kmで走っても回避できると言われている。それどころか最近では、時速100kmも視野に入るほど、その完成度は高い。
一方、運転手の眠気やストレス度合いなどの健康状態を把握したり、脳で念じたことを的確に理解し、安全な運転を支援するようなシステムを確立し実用化するには、脳波や心拍などの生体情報を把握するセンサーや、集めた情報をもとに判断する機能、そしてドライバーの意思と対立せずに動きを誘導する仕組み作りがまだまだ必要だ。
しかも、課題は多い。なぜなら、運転中のドライバーの頭に電極を貼るわけにはいかないし、ヘルメットをかぶらせるのも無理がある。かといって、体に触れることなく人体の微細な電気信号や振動を読み取る、非接触の「生体センシング」は超最先端の科学領域だ。また、集めた情報をもとに判断するといっても個人差がある。正確に判断するためには、膨大な個人の情報を蓄積し、その中からパターンを見出す「ビッグデータ解析」や、膨大な情報にいつでもアクセスできる「クラウドコンピューティング」、そして、判断の基準を見出す「人間工学」をさらに進化させ、融合させる必要がある。これらの技術をすべて自前で開発するには、時間も労力も相当必要だ。
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