朝ドラ「スカーレット」地味でも期待できる理由 真実味・人間味・面白味ある「こってり朝ドラ」

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次の味付けは「人間味」だ。大阪制作朝ドラとしての前作『まんぷく』で残念だったのは、現代のナンバー1女優・安藤サクラを起用し、当初は安藤の地肩を生かした人間臭いキャラだったものの、途中から「夫を支える利発な良妻賢母」に小さくまとまってしまった点である。

忘れられないのは、大阪制作朝ドラの金字塔である『カーネーション』(2011~2012年)の尾野真千子だ。大いに笑い・泣き・怒り、奔放に生きるという、言わば「人間臭さが服(それも自身の洋裁で仕立てた)を着て歩いている」ようなキャラ。

代表作TBS『SPEC』(2010年)における戸田恵梨香の感情豊かな表情は、十分に人間臭さ・人間味を感じるものだった。朝ドラという場でもう一段スケールアップして、『カーネーション』の尾野真千子に迫ることができるか、期待したいと思う。

最後に指摘しておきたいのが「面白味」の必要性である。この点で想起する大阪制作朝ドラは『ちりとてちん』(2007~2008年)。上方落語界を舞台としていたこともあり、笑いの含有量では群を抜いていた。ヒロイン・貫地谷しほりのコメディエンヌのとしての才能がそれを支えた。

『スカーレット』と『ちりとてちん』の共通項は多い。ヒロインが地域の伝統文化(陶芸・落語)を志すこと。ヒロインが大人になって、北東方向(滋賀、福井)から大阪に向かうこと。細かい話だが、ヒロインの名前(『スカーレット』=喜美子、『ちりとてちん』=喜代美)や、ヒロインのライバル的存在として裕福な同性の同級生がいることも似ている。

関西芸人たちに囲まれながら、戸田恵梨香のコメディエンヌとしての才能を引き出すことができれば、大阪制作朝ドラにしばらく欠けていた「面白味」まで欲張ることができ、結果、『カーネーション』『ちりとてちん』と並ぶ「こってり朝ドラ」として、長く記憶に残る作品になれるはずだ。

「泥くささ」と「こってり味」

大阪制作朝ドラファンである関西出身者として、『スカーレット』への期待を語ったが、最後に、ヒロイン戸田恵梨香の発言に注目したい。東京新聞や朝日新聞など複数のインタビューで戸田は「スカーレットはすごく泥くさくて、その泥くささがいとおしい」という、面白い発言をしている。

「泥くさくて、いとおしい」とは、言い換えれば、ここまで筆者が考察してきた「こってり朝ドラ」とほぼ同義だろう。朝から「こってり味」の『スカーレット』を、この半年、堪能したい。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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