ただ、「もっちゃり感」漂う中に2つ、キラリと光るシーンを見つけたのだ。
1つめは初回の冒頭。焼き物窯の炎を前に「水より薪や! もっと燃やす!」とヒロイン戸田恵梨香が叫ぶシーンである。関西弁での絶叫と、実際に火が燃え盛る画面の迫力に圧倒された。
2つめは第8回、川島夕空(ヒロインの少女時代役)が、おそらくこのドラマのキーとなるであろうセリフ「女にも意地と誇りはあるんじゃあ!」を絶叫したシーン。
先に述べた「もっちゃり朝ドラ」という印象に、これらのシーンが持つ熱量を掛け合わせると、『スカーレット』ならではの魅力が、一気にあぶり出される感じがする。
――「もっちゃり朝ドラ」×熱量 = 「こってり朝ドラ」
私は「こってり朝ドラ」としての可能性を『スカーレット』に見る。では具体的に「こってり朝ドラ」とは何か? 「こってり味」に向けて、どんな味付けを期待するか述べてみたい。
戦後の真実に真正面から向き合えるか
まずは「真実味」、つまりリアリティだ。前作『なつぞら』に識者が指摘したのは「労働争議」の描き方があっさりとしすぎていた点である。『なつぞら』ヒロインのモデルとなった奥山玲子の夫=小田部羊一氏も『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』(講談社刊)の中で「僕らの動画時代を語るには労働組合運動が切り離せないものがある。奥山(玲子)も積極的に労働組合の活動をしていた」と語っているにもかかわらずだ。
例えば労働争議など、時代の真実への斬り込みが足りなかったせいか、筆者も『なつぞら』の開始当初、『朝ドラ「なつぞら」が最高のスタートだった理由』(2019年4月11日配信)において肯定的に評した割には、終わってみると正直、物足りなさが残る印象を持ったものである。
対して、『スカーレット』において、戦争での心的外傷(トラウマ)を強く引きずっている佐藤隆太やヒロインの妹直子(やくわなつみ)の役回りは、戦後を舞台としたドラマでありながら、戦争の真実味から決して逃げないという宣言のように受け取ることができる。
「みんなが前向きで、果てしなく豊かになった古きよき時代」などというきれいごとではなく、きれいごとの表面をめくった中から湧き出てくる時代の真実味と真正面から向き合うことができれば、『なつぞら』に足りなかった「こってり」とした魅力が醸成できるだろう。
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