ペイパルのリブラ計画脱退は何を意味するのか 初のメンバー脱落、デジタル人民元を優先か

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そもそも欧米の規制当局から目の敵にされるリスクを負いたくないという思いもあるかもしれない。直近でも9月13日、ドイツ・フランス両政府が通貨に関する権利は国家に固有のものであり「どの私企業も要求できるものではない」と共同声明まで出し、リブラの利用をけん制している。アメリカもトランプ大統領を筆頭に強烈な反意を示していることは周知のとおり。

欧米主要国が足並みを揃えて締め出そうとしている以上、すでに地位を確立している大企業が当局との関係をこじらせてまでリブラに協力することの意味、あからさまに言えば「旨味」が改めて問われている状況だろう。

リブラの「旨味」はどこにある?

実際のところ、「旨味」ははっきりしない。リブラ協会のメンバーになるにはリブラとは別の暗号資産「Libra Investment Token(LIT)」を最低1000万ドル購入する必要がある。1000万ドルのLIT購入ごとに1議決権が付与され、LITを保有しているメンバーにリブラリザーブの運用益が分配されることになっている。

しかし、現状の超低金利・マイナス金利環境下では運用のプロである市場参加者でも収益獲得に手を焼いている。リブラリザーブの50%を占めるといわれる米ドルはまだしも、次に大きな構成比となるであろうユーロや日本円はもはや長期金利が水没している。少なくとも「最低1000万ドル」という安くないコストに見合うだけの「旨味」を運用益で実現するのは簡単ではあるまい。

もっとも、金利で儲からなくても、決済手段としてのリブラが隆盛を極めた場合、そこから得られる「情報」に大きな価値があり、それこそが「旨味」だという指摘もある。しかし、膨大な決済データから得られる情報(要するに個人情報)を使って商売をするという行為こそ、規制当局が最も警戒する部分と考えられる。

そもそも国際的な資金決済をビジネスにする以上、マネーロンダリング防止という観点から、銀行など既存プレイヤーと同等の規制を受けるのは当たり前である。ホワイトペーパーが発表された直後から、なぜかリブラ計画についてはその論点を楽観的に見る向きが多かった印象だが、ここにきて冷静な視点で評価をしようという機運が強くなり始めているように感じられる。

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