中央銀行はなぜこうもリブラを攻撃するのか メルシュECB理事講演で透けて見えた思惑
9月3日、フランクフルトで開催された「欧州中央銀行システム法務会議(the ESCB Legal Conference)」においてイヴ=メルシュECB(欧州中央銀行)理事が『Money and private currencies: reflections on Libra』(貨幣と民間通貨:リブラの反響)と題した講演を行い、各メディアがヘッドラインでその発言を取り上げている。
日本のメディアでメルシュ理事が登場することは多くないが、元ルクセンブルク中央銀行の総裁であり、ECB理事就任も7年目を迎え、この9月には欧州の銀行監督政策を束ねるナンバー2(単一監督メカニズム(SSM)銀行監督委員会副委員長)にも就任した欧州金融界の大物である。フェイスブック社のリブラ計画はその発表直後から方々で議論を巻き起こしているが、主要中央銀行の高官がテーマをこれに限定した講演を行うのは珍しい。
講演の冒頭でメルシュ理事は3つの疑問として、①リブラは他の民間通貨や公的通貨と何が違うのか、②法的・規制的な課題とは何なのか、③ECBのような中銀はリブラに対してどのようなスタンスを取るべきなのか、を挙げている。結論から言えば、警戒色を全面に押し出し、リブラの可能性をまったく認めない文字どおり全否定の内容であった。今回の記事では同講演に関し、目についたところを簡単に紹介してみたい。
中銀にとってリブラの何が不安なのか?
メルシュ理事が挙げた3つの疑問のうち、市場参加者の目線から気になるのはやはり③だろう。リブラはリブラリザーブと呼ぶ裏付け資産を保有し、主要通貨バスケットを前提とする銀行預金や短期国債など安全な資産で運用されるという。
この点、メルシュ理事は「リブラの浸透度合いや、リブラリザーブにおけるユーロの参照状況次第では、ECBが持つユーロへの管理能力を低下させ、ユーロ圏銀行部門の流動性への影響を通じて金融政策の波及メカニズムを毀損する可能性がある。また、それによってユーロへの需要が減退するなどして、単一通貨(ユーロ)自体の国際的な役割が低下させられる可能性がある」と最初から警戒感を隠さない。
その上でリブラが実現を目指すような国際送金のコスト低下やその他の効率性の追求については既存の決済システムが修正されていく中でも実現できると述べ、リブラの必要性そのものを拒むような発言をしている。
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