中央銀行はなぜこうもリブラを攻撃するのか メルシュECB理事講演で透けて見えた思惑
実際、フェイスブックを筆頭とする民間企業が収益化可能な膨大な個人情報を独占することについて不安は尽きないだろう。その上でメルシュ理事は「強い責務や公的信頼に尽くす独立した中央銀行だけが、信頼できる貨幣を発行するのに必要な組織的裏付けを持つ。ゆえに民間通貨が法定通貨の代替的な手段としての地位を築く可能性はほとんどもしくはまったくない」と将来性についても一蹴している。
あげく、最後には「欧州の人々が既に確立されている安全性や健全性を放棄してフェイスブックによる面白いが危険な約束(the beguiling but treacherous promises of Facebook’s siren call)に誘惑されないことを心から願う」とダメ押ししている。
脅威であればこそ実現しないリブラ計画
主要中銀の高官がリブラだけを演題としてここまで率直な講演を実施するケースは稀だが、断片的に聞こえてくる声を踏まえる限り、恐らく少なくない中銀関係者も同様の思いなのではないか。
既に述べたように、リブラはその仕組みの中で安全資産を買う必要がある。その際には当然、中央銀行による資金決済システムに乗る必要がある。しかし、ここまで中銀(を始めとする既存権力)から反感を買っている状況で計画自体が前に進むのだろうか。リブラをトピックにすると必ず既存権力への脅威や両者の対立構図が指摘されるが、そもそも脅威を持ち対立する相手を承認する筋合いはない。脅威であればこそリブラ計画は画餅で終わると考えるのが普通ではないだろうか。
もっとも、中国に目をやれば中国人民銀行がデジタル人民元の稼働を視野に入れており、しかも近い将来に実現するという。この点、「中国に先を越されるくらいならばフェイスブックに」という消去法的な決断の可能性はわずかながら残るかもしれない。
7月、米国議会で実施された公聴会に対応したフェイスブック社幹部のデビッド・マーカス氏は「もし米国がデジタル通貨を使った新しい決済の技術革新を主導しないのであれば、他の誰かがやることになると私は信じている」などと述べている。「うちがやらなければ中国がやるぞ(それでもいいのか)」という思いをにじませた発言であろう。
※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です
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