中央銀行はなぜこうもリブラを攻撃するのか メルシュECB理事講演で透けて見えた思惑
例えばリブラが膨大な量のドイツ国債やフランス国債を保有する状況になっていた場合、ECBが金融政策でこれを購入しなければならない局面では対象資産の枯渇が争点になる可能性もある(現にECBの量的緩和では国債不足」が課題になった過去がある)。もしくは、リブラ協会の運営に何らかの疑義(例えば個人情報の大量漏洩問題など)が生じた場合、短期間で巨額のリブラ払い戻しが殺到し、その裏付けであるリブラリザーブ(における安全資産)も売却する必要が出てくる可能性がある。
ECBの政策スタンスとは無関係にユーロ建ての国債が放出されれば、ECBは意図せぬ金利上昇に直面することになり、当該国の経済・金融情勢が好ましくない影響を受ける可能性がある。この時点で、メルシュ理事が言うように、金融政策の波及メカニズムが毀損されてしまっている。
「そもそも相応しくない」がECBのスタンス
上記のような懸念はややテクニカルなものだが、それ以前の問題としてメルシュ理事は民間企業が通貨を司ること自体、「そもそも相応しくない」というスタンスを前面に出していた。講演の最後のパートでメルシュ理事は「貨幣という分野において、歴史は2つの基本的な真実(two basic truths)を証として示してきた」と切り出している。
まず1つめの真実としては「貨幣とは公的な財であるため国家権力とは不可分の存在であるということだ。それゆえ超国家的な貨幣は人類の経験による堅実な基礎を持たない脱線(aberration)である」と述べ、人類の歴史に対する挑戦(であり上手くいかない)という整理をしている。
また、歴史が示してきたもう1つの基本的真実として「貨幣とは、独立性と説明責任を持ち、それ自体が公的な信頼を享受し、また民間同士の利益対立に巻き込まれないような公的機関に裏付けられた時に、信頼性を持った上で社会経済的な機能を発揮することができる」と述べている。
この点は「①リブラは他の民間通貨や公的通貨と何が違うのか」のパートでも強調されており、「民間企業のコングロマリット(で運営されるリブラ)は彼らの株主や他メンバーにしか説明責任がない<中略>公的な信頼を貯蔵する存在(repositories of public trust)にはなりえない」としている。
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