名門校教師が危惧する「グローバル教育論」の罠 ビジネスマンの促成栽培を目指していないか

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「財界の意志を反映して、『グローバル時代に対応できる人材を育成する』といった場合には、経済活動上のスキルを若者に身につけさせる必要があるという意味合いで議論されることが多いように思います。一方で、これからの時代には地球規模でものごとを考えなければいけないという意識がわれわれのなかにあります。先進国がエゴを捨てて、これまでとは違った視点から、地球全体のことを考えなければいけない局面にきているのだと思います」

桐朋中学校・高等学校の片岡哲郎校長はそう指摘します。「グローバル」という言葉がもつこの2つの意味が混同して使われているために、いま、世の中にいろいろな矛盾が生じているという指摘です。

「グローバル経済が大きな経済格差をもたらすであろうことも、かねてより指摘されていました。イギリスのEU離脱、トランプ政権の誕生、その後もヨーロッパの大国の選挙では、社会階層による対立が表面化しています。グローバル経済が発展していくのであれば、当然予測のできたことでした。

多様性に対してある種の寛容さをもって、そのなかに共通の正義だとか共通の価値観を見出す作業をどうやっていくのか。内側では、『分断』という言葉に象徴されるように、一人ひとりの人間が関係性を失っているというか、閉塞感を感じているというか、そういう社会のあり方をどういうふうにしていけばいいのか。

日本においても格差は重要な問題になっています。そういう時代のなかで、外側では異なる価値観や文化をもったひとたちとの関係をつくっていかなければいけません」

若くして起業することの何が偉いのか?

巣鴨中学校・高等学校の堀内不二夫校長の認識も似ています。

「先進国内にも鬱憤がたまってきている。勝手にやろうみたいなリーダーが出てきている。でもそれは通らないですよね。いまのままではEUだってもたないんじゃないかと思います。あんまりそういうことを言うと、いまの保護者には受けが悪いのかもしれませんが、子どもたちにはやっぱり、単に、いわゆる経済的な利得だけを求めるっていう人間にはなってほしくないなとは思うのです」

拙著『21世紀の「男の子」の親たちへ』でも繰り返し主張していますが、実際、社会全体が利得に偏り、教育もそれに引っ張られすぎているように私も感じています。

「お金を稼ぐことは悪いことではありませんが、最近、若くして起業することをやたらともてはやしますよね。でも、子どもの時代に読むべき本もあるだろうし、勉強もあるだろうし、友達との関係もあるだろうし。もっとそっちに時間を使うべきでしょう。でもそういうことを言っていると、なんか古いっていう話になる(笑)」

促成栽培のビジネスマンを育てるような教育には、私も感心しません。じっくりと時間をかけて、たくさんの日光と雨を浴びて自ら大地の養分を吸収できるようになれば、青々とたくましく育つものを、ビニールハウスに入れて養分を与えてとにかく早く育てようとする。たしかにそれでも育つには育つが、いつまでも肥料を与え、温度管理をしてやらないと枯れてしまうようなことだからです。

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