クレーム被害を最小限に抑える「答え方」 真摯に考える人ほどミスを犯してしまう

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人は、相手にわかってもらえていないと判断すると、何とか伝えようという気持ちから、ありとあらゆるエピソードを話したくなる傾向があります。するとエピソードばかりが増えてしまい、真意がわかりづらくなるのです。クレームのもとになる感情を知るには、相手の訴えを、まず正確に「受け止めること」なのです。

そのときに注意したいのは、相手が使った言葉を使って返答することです。

私たちは、日常会話の中で相手が使わない語彙を使って変化球で返すことが多いのですが、気持ちをきちんと受け止める際は、言葉を変えないことが重要になってきます。

「○○な状況になって驚いて、とても困惑した」という表現に対し、「それは大変な思いをさせてしまい……」と答えてトラブルになるケースがあります。表現を変えたことで「いや、大変ではなかった」と抵抗されてしまうのです。「困惑させてしまい……」と相手が使用した言葉を入れて返すことによって、しっかりと受け止めてもらえている、聞く体制ができているという印象を相手に与えることができます。

だからといって、「○○な状況になって驚かれ、困惑されたのですね」と全リピートはNGです。マニュアルどおり答えている、バカにされていると思われてしまいます。あくまでもフレーズを使うという意識を持ってください。

よかれと思い、ほかの言葉に言い換えれば、「そんなことは言っていない!」と火に油を注ぐことにもなりかねません。とくに、気持ちを表現する言葉、事実関係を説明する言葉は、相手の使った表現を忠実に使いましょう。

相手が伝えてきた内容をそのままの言葉で受け止めることで、わかってもらえたという意識が強まり、安心感を覚え、怒りは収まる傾向にあります。

真摯な受け止めを、まずは実践

また、「どういうつもりだ?」という、あおるような問いには、真摯に答えようとすればするほど、こちらの言い分を並べてしまいがちです。しかしそれは逆効果です。相手は聞く耳を持たないどころか、言い訳なんか聞きたくないと、かえっていら立ちを募らせます。

このような質問に対し、答えてよいのは方法や事実のみです。「使い方」や「申請方法」といった内容であれば、速やかに答えてください。しかし、姿勢や思いなどに関することは、「答える」必要はありません。「応える」姿勢が大切になり、こちらが話すのではなく、相手の思いをきちんと受け止めることを優先してください。

それでも、収まらないこともあるかと思います。「誠意を見せろ」など、何に対してのどのようなことか具体的にわからなかったり、無理な要求を強いてくる、また、暴言や暴力により話し合いにならない場合は脅迫などの違法行為にあたるので、警察への通報を行うことも含め、毅然と対応することも大切です。

相手から、必ずしも怒りの表現があるとは限りませんが、淡々と静かな怒りを抱えているケースもあるので、何を訴えているのかを見極めることが必要です。真摯な受け止めを、まずは実践しましょう。

トラブルが起こったことに対してはこちらの謝罪の気持ちも大切ですが、クレームを言ってきた側は、気持ちや思いをきちんと齟齬(そご)なく受け止めてもらうことを望んでいるケースが多く、その気持ちに対しての理解を示すことができれば、安心感と納得感につながります。気持ちが受け止められたか、受け止められなかったかが、それ以降の状況に大きな影響を及ぼすので、まずは、相手の気持ちに沿う対応に徹してください。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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